6月7日その⑦
ブーブーブーブー
「何?どうしたの?」
「あーバイトお疲れ様」
「それだけで電話してくるなんて殊勝な先輩ですね!後輩冥利に尽きますよー」
「何一つ言葉に力がないんだが」
「嫌だなあそんなわけないじゃないですかー」
「そういや前の食事会以来だっけ?話すの」
「バイト微妙に被らなかったですからねー。べ、別に寂しかったとかオロオロしてたとかまずいこと言っちゃったなあとか思って過ごしてないですからね!本当に!」
「何でそれをわざわざ口に出すんだよお前は……まあいいや」
「うん……で?何の用?」
「前の鷹翅でバンドをやる話、参加するかどうかってやつ」
「……………」
「何だその反応は」
「やーまだ決めなくてもいいんすよー?ほら、まだ10日も先の話じゃないですかー?」
「そういう適当な人間はあまり好きじゃなくてね。決めたんなら伝えておかないとって」
「そ、そうです……か。で、どうするの?」
「いきなり声のトーン変わるのな。キャラぶれぶれだぞ」
「う、うるさい!!もう自室に帰ってきたから後輩キャラは終わりなの!」
「基準わかんねーし、この電話始まった時からずっとマキシマムザホルモン流れてた……」
「あーもううるさいうるさい!!早くどっちにするか決めろ」
「さっきはまだ決めなくていいとか言ってたのに……まあいいか」
「………………」
「結論から言うと、パスだ。そちらのバンドには参加しない」
「!!!!!」
「申し訳ないけれど、そうそっちのリーダーに伝えてくれ」
「………理由は?」
「理由?」
「念のため聞かせて?理由は?」
「そりゃ単純だよ」
「………」
「誰かと一緒じゃなくても、ピアノは弾けるって気づいたからだよ」
「……何それ?」
「へ?」
「そんなの、当然でしょ?」
「それもそうか。でもその当たり前に気づくのに、こっちは5年もかけたんだぜ」
「バカでしょ」
「バカだと思う」
「そっか……」
「今日、鷹翅に帰ったよ」
「!?!?」
「施設自体は何も変わってなかったけど、中にいた子供達は全然知らない子達だった」
「そっか……もしかしてそこで……?」
「久しぶりにピアノを弾いた。何だろうな。あんなに嫌がってたのに、いざ弾いてみるととても楽しくて。やっぱり自分、ピアノ弾きたがってるんだって」
「ようやく?」
「ようやく」
「ほんと、自分に不器用だね」
「そうだな。だけどまあ、なんだ。ここで誰かとピアノを!とか、コンクールに!とかならないのが自分だなあと」
「ほんとね。まあいいんじゃない?元々こっちが無理矢理誘ったんだし、私らも気が乗らないとかでゲリラライブ辞める時あるし」
「そっか…ありが……」
「でも、ちょっと残念だな。友一とステージに立ちたかったな」
小声で言ったつもりなのだろうがダダ漏れだった。遠くで乃愛の叫ぶ声がした。
「それじゃあな。また明日のバイトで」
「んーお疲れ様です先輩!」
そして最後は後輩キャラで電話を締めていた。1つのキャラで統一できないのかなあと首を傾げつつ、俺は部屋に入って百足と戦う乃愛に助勢したのだった。




