表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/365

6月7日その⑥

「そんな感じで、最後はみんなにピアノを聞かせて終わりましたとさ、ちゃんちゃん」

「中々にええオチついとるやん!完成度高いと思うで」


 その日の夜のことである。乃愛(のあ)は今日の晩ご飯をしっかり支度した後に、皿洗いも済ませて俺の話を聞いていた。たまのバイト休みくらい俺がやろうかと提案はしてみたものの、固辞されてしまったのである。


「にしてもお疲れ様やで、結構遠いとこあって、行くん大変やったやろ?」

「まあ自転車使ったからそこまででもないし」

「あの坂やとむしろ自転車の方が辛ない?」

「それは大いにありえるな」


 そしていつもの通り、水を汲んで注いでくれた。


「最近それ、乃愛にやらせてばっかだな」

「申し訳がらんでええって。ほら、隗より始めよとかいう言葉もあるやん」

「……乃愛、えらく上機嫌だな」


 今日一環として声色の高い乃愛に対して、俺は少しだけ目を細めながら尋ねた。


「え?えーっと、いや、そんなことない…」

「いや別に上機嫌であることに文句を言いたいんじゃないけど、なんかあったのかなあって」

「ほら、友一がピアノ弾いたってのが嬉しくてね」


 ここで一息いれてから、俺はにこにこの乃愛に向けて今日決心したことを伝えることにした。


「乃愛」

「ん?」

「バンドの話、どっちも断ることにした」

「ん!」

「驚かねえのな」

「驚かんよ。なんでバンドの話を辞めにしたかなんとなくわかっとるからね。なんならせーので言ってみる?」


 いいよとも言わずに、すううっと息を吸った。そして、


「「別にピアノは1人でも弾けるから」」


 2人完璧なタイミングでハーモニーを奏でた。俺は素直に驚いていた。この女はもしかしてテレパシーとか使えるのかもしれないなんて、バカなことを考えるくらいには困惑した。


「バンドの話やめるってんなら、この理由しかないかなって」

「流石だなあ、乃愛は」

「えへへ!もっと褒めてくれてもええんよ?」


 そう言いつつコップを傾ける乃愛は、いつもより少し艶やかに見えた。


「ふと思ってしまったんだよ。ピアノ弾きたいんなら、あそこに帰って弾いたらいいじゃんって」

「うんうん」

「別に無理して誰かと弾かなくても良いんじゃないかって。無理して誰かに発表する必要なんてないんじゃないかって。間違って…」

「間違っとるわけないやん」


 即答だった。そして乃愛はにこりと笑って優しい声でこう言った。


「友一、やりたいことは我慢しとったらあかんけど、やりたくないことも我慢しとったらあかんで。ほんまにやりたいことはなんやろって考えとかんと、望んでいた未来に辿り着けへんで」


 そう言った後、


「なーんて、説教くさくでごめんな」


 と戯けるまでが彼女のテンプレだ。そんな彼女を見て、言いたいことが山のように溢れてきたものの、自分の中でうまく消化できなかったから

「ありがとう」

 としか言えなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ