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6月7日その⑤

 児童養護施設は18までいることができる。基本的にはそれまでに親御さんや引き取ってもらう人、最近は虐待の一時預かりが増えているから親族への引き渡しもあるが、最大で高校卒業まで入ることができる。俺は無戸籍がネックとなって中々貰い手が見つからなかった。特に中学を超えてくると、言い方が悪いが需要は減る一方だ。子供の可愛らしい姿と中高生のやんちゃな思春期となら、好まれるのはどちらか誰でもわかるだろう。


 しかしながら、俺は出て行くことになった。これは完全に、施設側の都合だった。児童養護施設は最近、共働きや待機児童などの問題に解決すべく、幼少期の児童を一時預かりするようなサービスを始めつつある。特に私立の施設はそれに積極的である。その中でどんどんとウェイトをそちらへ向かっており、俺や彼女のような人間は減りつつある。


 実際問題、孤児を保護してもお金なんて生まれないが、そういった児童はお金になる。私立の養護施設なのだから、お金を生まない人間など蔑ろにされてもおかしくない。だから仕方ないのだ。覚悟もしていたし。


「樫田さんはめちゃくちゃ反対したらしいじゃないですか。あんなの、追い出しているだけじゃないかって」

「勿論だよ。事実じゃないか。未だに強制的に退園させたあの判断は間違っていると思っているよ。しかも、()()()()()()()()()なんて、矛盾にもほどがある」

「勝手に出て行くことにはできないからそうなってるんですよね。ほんと、違法行為かは法律詳しくないんでわからないですが、少なくともコンプライアンス違反ですよ。何の世話もしていない児童を表記上記載したままってのは」


 大人にバレては困ると昔言ったが、俺に関するその理由はこれである。この場合自分にどれだけの責任が覆いかぶさるのかわからないが、事情を全部知った上で施設の違法行為を了承したのは事実だ。だってそれが最良だと思ったからだ。自分がいてもこの施設に益がない。なら出て行って何が悪いと。


「でも感謝してるんですよ。ほら、せめてものって高校の入学金と入学への各種手続きを行ってくれたじゃないですか」

「それは…でもそれくらいは…」

「樫田さんは1月〜4月分の生活費も下さりましたし、すみません絶対に返します」

「そんな……本当は私が、引き取れればよかったんだけどね……うちは息子を大学に行かせるので精一杯でね」


 シングルマザーの樫田さんに、そこまで求めるほど俺はひどい男じゃない。


「まあでも、全然辛くなんてないですよ。今は……」

「お兄ちゃん!!!」


 大声が響いた。京華ちゃんが戻ってきたのだ。後ろには施設の子達が列をなして集まっていた。


「ほら、お兄ちゃん!!!ピアノ弾いて!!」

「え?」

「あんなに上手だなんて、京華知らなかった!!みんなにも聞かせてよ!!」


 子供は純真で残酷だ。俺がどれだけ悩んでいたかなんて、日夜説明しても理解できないだろう。だから俺はため息をついた。そしてそのまま、鍵盤に指を置いたのだった。

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