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6月7日その③

 ここを出てから過ぎた時間はわずか1年半だ。まだまだ知り合いも残っているだろうと思っていたが、まさか京華ちゃんだけとは思わなかった。


「他の子達は引き取られたんですか?」

「高校に寮があったからそこに入った人も居たし、高校を卒業したから居なくなった人も居たね。でもこれが普通の姿なんだよ。今時ここに来るのは親からの虐待から離れて暮らす必要のある場合か、親の環境上どうしても親が面倒を見れない場合くらいだよ。君や、この子みたいな孤児はほとんどいないと言っても過言ではないね」


 第1ホールへ歩く道すがら、見知らぬ男にびびる他の子供達を尻目に、京華ちゃんだけは後ろをてくてくとついてきていた。


「平均年齢下がったんじゃないですか?」

「それは中高生が帰ってきてないからだよ。今4人いるが、4人とも部活や勉強で忙しいみたいでね」

「自分みたいに学校から真っ直ぐ帰ってきているやつなんてそうそういないでしょうね」

「え?お兄ちゃん学校行ってたのー?大人って、しっかりとした服着なきゃダメなんじゃないのー?」

「あー制服?うちの学校はないんだよ」


 京華ちゃんは純粋な瞳をこちらに向けてうるうるしていた。


「いいなあ。じゃあ京華もそこに入る!」

「おーだったら結構勉強しなきゃダメだぞー!」

「えー、勉強きらーい」


 ブーブー言いつつもついて来る京華ちゃん。まだ体格も仕草も表情も少年となんら変わりなかった。小学5年生ならこんなものといえばこんなものである。


「そういや樫田さん」

「どうした?友一君」

「京華ちゃんは、引き取り先が見つかったんですか?」


 彼女がここにきてからなら2年が経とうとしている。そろそろ鷹翅の規定では、里親を見つけて養育してもらわなければならない。無論ダークファンタジー漫画ではないから、里親が見つからないからといって殺されるわけではない。しかしそれは中々にストレスである。そのことを実感したからこそ、俺は尋ねた。


 樫田さんは明るい声で答えた。


「あー、うん!この夏にね。しかも相手はこの街の一般家庭よ」

「私としては嫌だなー。ここの生活楽しいし。お母さんなんて、お父さんなんて、別にいらない」


 そう言って京華ちゃんはぷいっと横を向いた。少し心配そうな顔をする樫田さんに向けて、俺は火に油を注いだ。


「まあ居たことないからわかんないよなー」

「そうだよー」


 正直な思いである。それをこの人の前で言うのはいささか残酷だが、それも甘えの1つである。


「ねえねえ、お兄ちゃんはどうしてここを出たの?」

「ほら、そろそろ第1ホールだよ!」


 まるで話を遮るように、樫田さんはドアを開けた。

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