6月6日その⑤
「なるほどーんなことがあったから今あんたのスマホがブーブーブーブー鳴り響いとるねんな」
今日の晩飯である豆腐ご飯(卵かけご飯の豆腐バージョン)を食べ終わった乃愛は、お皿を片付けつつひっきりなしに通知を知らせる俺のスマホに同情していた。
「いや武田さんは全然うるさくねーんだよ。あの人は回答期限だけ連絡して他のことは一切言ってきてないから」
「じゃあちかちゃんが連絡しとるん?」
「いや、1番うるさいのは古森だ」
「采花ちゃん?」
「多分だけど近藤から話を聞いたんだろうな。演奏してるところ見たい!やりなよやりなよ!って遠慮なく来ててさ」
古森采花のこの言動において他愛や策謀の入り込む隙間など皆無に等しい。そんな事は重々に理解していた。彼女はただ、自分が聞きたいと思ったからそう懇願しているだけである。単純な行動原理だ。悩みなんてこれっぽっちもなさそうな振る舞いの数々は、悪気は無いにしてもイラついてしまう時があった。
「そういや采花ちゃん、ピアノ教室に通っとったらしいね」
乃愛は一口一口噛みしめるように水を飲んでいた。コップの取っ手を持たず、両手で包むように持ち上げていた。どうやら彼女もだらけモードに入るようだ。ここのところ元気のない乃愛だが、髪を切ってからは少しずつ回復して来ているそんな気がした。むしろ立ち止まっているのは俺の方だった。
「今でもクラシックとかよう聞いとるんやて」
「イメージないなあ。ジャニーズとかEXILEとか追いかけてそうなのに」
「いやその辺も好きらしいで。それはそれ、これはこれって」
都合のいい話だな。嫌味を言いたくなるのを我慢しつつ、電話のバイブ音をのんびりと聞いていた。
「……出たら?」
「めんどくさい」
「や、気持ちわかるけど…ほら、私黙っとるよ?」
前みたいなことが起こったら大変な目にあうからな。彼女の目はそう訴えかけているような気がした。
「今はバイト中って設定だからな。9時過ぎまでこのテンションなわけないだろ流石に」
「っていうか友一、最近ナチュラルに嘘つけるようなって来とらん?お姉ちゃんめっさ怖いわ。いつか詐欺師みたいになっとるんちゃうかなって」
そんな頬に机つけた状態で心配されても説得力ねえよ。
「お姉ちゃん…?」
「ほら、設定上私お姉ちゃんやん?」
「家事のできないぐうたらでダメダメな……」
「そこはまあ、実際はもうちょいやっとるやん?今日の豆腐ご飯も美味かったやろ?」
ぷつん、電話のバイブ音が切れた。それを見計らったように、乃愛は尋ねて来た。
「で、結局どうするつもりなん?」




