6月6日その②
あーまあそうですよね。前も言ってたもんねバンドに誘いたいって。武田さん軽音部だしその路線の方が普通ですよね。ほんの、ほんの、ほんのほんのほんの少しだけ期待した自分がバカでした。うん、そうだな。そんな訳ないわな。今時こんな所に繰り出して抱き合ったりするバカなカップルとかいる訳ないわな、うん。
「ほらさ、藤棚ステージってあるでしょ?文化祭で。あれに出たいなって思ってるんだ」
藤棚ステージ?初耳である。
「ごめんだけど、それ、何?」
「え?知らないの?うちの伝統の舞台であり目玉企画なのに」
「すまんな、去年はずっとお化け屋敷の店番していたから」
「それ、暗に去年のクラスに対する恨み言よね?いや確かに私も君が店番押し付けられているのに何も言えてなかったけれども」
武田は少ししゅんとした顔をしていた。別にそんなこと全く気にしていないのだが。別に自分はあーゆーお祭りごとがそこまで好きじゃない。1人でぼーっとする時間を過ごすくらいなら、仕事をしていた方がマシだという判断のもと行動したまでだった。
「で、藤棚ステージってなんだ?」
「あれだよ、中庭に藤棚あるでしょ?あそこに野外ステージ作って好きなことするんだ」
「好きなこと?」
「そう!歌ってもよし、踊ってもよし、バンド活動も大歓迎だし、とりあえず何してもいいの!私はそこでさ、軽音部を超えたバンドを作って、全部一からやってみたいなって、そう思ったんだ」
武田は少しはにかみながら話し始めた。
「ほら、バンドって、別に軽音部の特権じゃないでしょ?独学でギターを勉強している人もいれば、君みたいにもうプロに混じってピアノを弾いている子だっている。もしかしたら内気そうな子の中に、めっちゃ歌の上手い子もいるかもしれない。そんな個性的なメンバーをみんな集めたら、音を奏でる瞬間からもうワクワクしてこない?私はそんなバンド活動もしてみたいなって。勿論、軽音部としてのライブも頑張るけどさ。君みたいな、この文化祭でしか集まれないメンバーで、バンドしたい!そう思うんだ。年に1回、いやもしかしたら一生に1回になっちゃうかもしれない、そんなメンバーでね」
彼女の言葉は流暢だった。彼女の目はキラキラ輝いていた。彼女の体はまっすぐ将来を見据えていた。それら全てが、自分には眩しくて、眩し過ぎて、いつもなら拒絶する回答を躊躇してしまった。
「か、考えとく」
武田さんは笑ってそれを許容した。
「ほんと?まあまだ時間あるから、ゆっくり考えて!何かわからないことあったら次からはLINEでもいいからさ!」
そうして手を振る武田の姿を見つつ、俺は踵を返したのだった。




