6月6日その①
「ごめんね、わざわざこんなところに呼び出して」
その日の昼休み、いつものように遠坂と新河の3人でご飯を食べていたところ、放課後体育館の裏手に来いという指令を受けてしまった。そして今、この始末である。
「どうしたの?武田さん。俺に何か用があるんならスマホで呼び出してくれると助かったんだけどな」
「……いや、どうしても伝えたいことだったからさ……口頭で呼び出したくてさ……」
武田はとても照れた顔をしながら少し茶色の入った髪の毛をいじくっていた。見た目はバンドマンらしくピアスをジャラジャラつけて派手なネイルを纏っているのに、彼女は常識人でなおかつ臆病な印象があった。そんな彼女が勇気を出して、何かを俺に伝えようとしていたのだ。
正確に言えばこの学校に体育館裏なんて場所はない。我が学校の体育館は一階に武道場と剣道場と食堂、更衣室などがあり、バスケコートとかある体育館らしい空間(うちの学校ではアリーナと言っている)は2階にあって、校舎と繋がっていた。体育館の四方は校舎、ハンドボールコート、グラウンド、そしてプールに囲まれていて、裏手と呼ばれるような周りと遮断されている空間はなかった。
では我々はというと、正確には裏手ではなく2階へ上がる階段の下にいた。確かに比較的遮断されているが完璧ではなく、時折通る野球部や水泳部の面々の好奇な視線が少し痛かった。
「で、話って何?」
確かに今日はバイトがなかったから、さっさと帰る必要はなかった。しかしながらここ数日、俺は少し沈んだテンションを戻せないまま過ごしていた。そんな俺に気づくような人はいない。乃愛と違って、誰にも構われていない証拠だ。別に悲しくも何ともないが。
「い、いきなりだね……ちょ、ちょっと、世間話でもしない?そ…それとも…今日は予定があるのかな?」
「別に予定は無いけど、世間話するほど俺たちよく話す関係だったっけ?」
冷た過ぎたのだろうか。武田はアウアウしつつ泣きそうな顔になっていた。いやでも俺の指摘は間違っていないはずだ。そして何となくだが、俺はこのシチュエーションを知っている。何を言われるのか、その後どうなるのか、体育館の裏手というだけで予測可能だ。
「うう、じゃあ単刀直入にいうね」
「うん」
「怒らないでね、新倉君」
「……うん」
武田は上目遣いになって、俺にこう告白してきた。
「私と一緒に、文化祭でバンド活動してくれませんか!?!?!?!?」




