6月4日その②
「なあなあ友一、お酒ってさ、美味しいんかな?」
いきなり乃愛が尋ねてきた。
「いきなりどうしたんだ?」
「いやさ、大人ってこんな感じにお酒飲んどるらしいやん?」
「それは一概に言えないだろ。最近は下戸な人間も増えとるらしいし」
俺はそう言いつつお水を飲んでいた。お茶すらろくに飲まないと言うのに、ジュースも炭酸もほとんど飲んだことないと言うのに、お酒なんてハードルが高いんじゃないか?
「まずはそれよりサイダーを飲んでみたい」
「サイダー?炭酸?」
「ろくに飲んだことないから」
「コーラは?」
「コーラは味が濃そう」
「んー?味が濃いんはちょっと違うけど、でもあんたには合わなさそう」
乃愛はもういっぱい!と言わんが如くコップを天に突きあげた。そして自分で立って飲み物を汲んできていた。
「貴重な水を飲んでもうてごめんな」
「良いだろ別に」
じゃーっと水を汲んで、テクテクと歩いて戻ってきた。俺はふと聞いてみた。
「ジュース飲みたいとか思う?」
「思わん」
即答だった。
「でも、早く大人になりたい。それは思うかな?」
「大人になりたい?」
「うん。大人になりたい。大人になって、1人で生活していけるくらいのしっかりした人間になりたい。毎日働いて、家事もして、部屋も綺麗にして、町内会の掃除とかにもしっかり参加して、そんな風に暮らしたいなあって、最近そう思うんだ」
ごくごくごく、飲むスピードは落ちて行かなかった。
「タバコはちょっと嫌だけど、お酒嗜んだり、ちょっとマッサージ店とかエステ店とか行ったり、休日は同僚とか高校の同級生とかとスイーツ店でお菓子食べまくったり…」
「いいじゃんそれ」
「やろー?」
そして乃愛は、ぽつりと呟いた。
「友一、怒られるかもしれんけどな」
「うん?」
「私、就職しよかなって思ってるねん」
「そんなの、俺が怒るわけ…」
「それでな、あんたにお金返すわ」
まるで静寂を嫌がったかのように、乃愛は矢継ぎ早に話し始めた。
「返す必要なんてないってあんたが言うのはわかる。別に勝手に養ってるだけだって、あんたはそう言ってくれとったもんね。それはとてもありがたいし、嬉しいし、でも何よりも申し訳なくてな」
「そんなこと…」
「思わなくてもいいって言いたいんやろ?ちゃうねん。これは贖罪の意味とか、義理とか人情とか、そんなんじゃない。感謝や。感謝しとるからこそ報いたいんや。ほら、私はさ…」
震えだした彼女の声に、何より彼女自身が気づいたみたいだ。
「な、何言ってんねやろうね!!あんたを励まそうと思っとったのに、全然上手いこと話せんかった…」
「いやいや、大丈夫だって」
「あんたに返さなあかんもんばっかやのに、いっつも与えてもらってばっかやねんもん」
しゅんっとなってしまった2人で水を飲み干してしまった。まだ、お互いの夜が明けるまで時間がかかりそうだった。




