4月6日その③
ぺッと舌を出しながら、柱本さんは帰っていった。何がペッだよ高校生でもイタい行動だぞと言いたくなったが、そんなことをいちいち口にしていたらあの人に関わることなんてできない。俺はそれを悟っていた。この1年弱の経験の賜物だ。
さて、と。俺はもう一度スマホに目を落とし、返信を打ち始めた。
『大盛況じゃん!お疲れ様!』
今は恐らく部活の紹介や2年生達による座談会が開かれている時間であろう。生徒会として忙しいのは午前の方だ。アイスブレイクと評して行われるレクリエーションの数々は、生徒会発案で尚且つ実行するのも生徒会だ。まだ新生活始まったばかりのウブな高校生の壁を溶かすには、結構な火力が必要だ。何が言いたいかというと、彼女は疲れているということだ。
俺の労いの言葉に対して、乃愛は即座に反応した。
『ありがとー!そっちもお疲れ様!!今日は6時までだっけ?』
『そうだよ!そっちは?』
『ごめん多分だけど打ち上げするっぽいんだ!』
『生徒会で?』
『そうそう!』
ここで俺が一息ついた。こんな時に、乃愛抜きで1人ぼっちのご飯を食すのが寂しいとか、誰かにご飯誘ってもらえるなんていいなとか思うのでなく、
『大丈夫?お金持ってる?』
なんて返事してしまうあたりが、いやな自分らしさだなと身に染みた。まるで両親のような着眼点で心配している自分が、我ながら滑稽だ。
『うんん、あんまりない…でも同じ生徒会メンバーからお金貸してもらうのは申し訳ないし…』
と返信が届いたタイミングで、着信音が鳴り響いた。相手は無論乃愛だ。
「どうしよう…友一」
開口一番相談をする不躾さには、もう慣れた。俺はうどんを啜りつつ、雑音だらけの電話先に耳を傾けていた。
「私おらん所で結構話し進んどってさ…なんか、勿論古村さんも来るよね、的な感じになっとって…」
「まああるあるだよな。行って来なよ」
「お金が…」
「『持ち合わせ少ないけど、いい?』って言って後で払えば良いんじゃね?」
「そうやけど…今月お金使うのに申し訳ないわ」
「それくらいのお金くらい出せます。社畜学生舐めんな」
「でも!……」
威勢良く否定された割には、次に出て来る言葉は少し間が空いてしまっていた。
「……友一は、我慢してくれてるのに」
我慢なんてしてねえよ、俺はな!!
叫びたくなるほどの怒りを心に秘めつつ、俺はなるべく冷徹に言い放った。
「そんな馬鹿なこと考えなくて良いから、行きたいなら打ち上げ行って、行きたくないなら帰ってきたら?俺はどっちでも良いし」
そして少しの沈黙。声、トーン落としすぎたかな。少しだけ反省しつつ、
「それじゃ、また連絡してな」
と言って電話を切った。ギリギリのタイミングで、乃愛の
「うん!」
という声が飛び込んできた。その声が存外に明るかったので、俺は少しだけホッとした。そしてそのまま、乃愛から送られてきた楽しそうな写真を眺めつつ、俺は昼ご飯を食していたのだった。




