6月3日その⑥
男子トイレと女子トイレの合流地点、そこで塚原真琴と遭遇した。これは中々に僥倖である。そう当時思ったのだが、ここで俺は自分の危機察知能力をフルに使って思考した。
ちょっと待て、今彼女に尋ねるのはおかしいのではないか?
どこで知ったことにするのだ?手紙が届いたというのなら、今は家に居ないのだから誰がそれを見たのだという話になる。誰かが見て、それを自分に連絡するという形でないと、このタイミングで切り出す所以がない。
親がいる、姉がいる、そんな嘘は、この女には通用しない。塚原真琴は知っている。俺が天涯孤独な人間であることを理解している。近藤とは違うのだ。
しかしながら、他の者ども同様に古村乃愛と同居していることも隠している。ならば真実を伝えることはできない。嘘をつくしかない。
いや、帰ってから連絡を取る手もあるか。それなら怪しまれることもなく、自然と情報を聞き出せる。しかし個人的には今ここで釈明して欲しかった。それは諦めることに…
「ねえ、新倉」
塚原真琴は呆れた声で呟いた。
「あの人ら、話してることが全然わからないんだけど…あんたはわかるの?」
俺は心臓をばくばく言わせつつ、それでも自然体で答えた。
「まあ、ああいったことAさんとかBさんも言ってるからな…というかそっちはあーゆう話しないの?」
「しないわね。リーダーはみんなの前であーゆー話しないし、もう1人はまず来ないから」
「へー案外健全なんだ…」
そう言って店に帰ろうとしてきた。しかしそれを彼女は制止してきた。進行方向を腕で差し押さえ、壁ドンする側の体制で横にいる俺を睨んだ。
「もうちょっとだけここに居ない?もうちょっとだけ」
帰っても話わからないのだから、帰りたくないんだろうな。お前はわがままな女王さまかと思いつつ乗ることにした。もしかしたら自然と鷹翅の話題が出るかもしれないし。
「別にいいけど?わかんない話されたって面白くないもんな」
「べ、別にそういう訳じゃないし!それにさ?抱いたとか抱いてないとか、たかがハグくらい欧州にいる人は普通にやってることなのに、何をそんなに照れて…」
え!?俺は塚原真琴に驚愕して居た。もしかしてこの子、そこから知らないのか?それは健全な男子高校生、いや中学生以下だぞ。コウノトリが運んでくるの次段階じゃねえか。どうしよう、これ正直なことを言った方がいいんだろうか?
「ん?何で黙ってんのよ!?」
塚原真琴は純粋である。それがわかっただけでよしとしよう、うん。
「そ、そうだねー」
「めちゃめちゃ棒読みじゃない!?」
「君はまだ知らなくていい世界だ」
「同い年よね!?え!?なんかおかしなこと…」
塚原真琴は動揺していた。俺は困惑していた。この謎空間に、俺はいつまでいるべきなのかと思案してしまったのだった。




