6月3日その⑤
ついでにトイレに寄ろうと思って、店の外にある化粧室へ向かいつつ、俺は電話に出た。
「はいもしもし」
「あー友一!ごめんな楽しんでるとこ」
「大丈夫だよ別に。何があったんだ?」
「鷹翅から郵便物来とるで」
俺はトイレの個室に入って、苦虫を噛み潰したような顔をした。別に小便をしたかったから個室に入る必要はなかったのだが、あまり聞かれたくない話だったから仕方なかった。
「なんて書いてるんだ?」
「や、わからん。まだ開けとらんもん。こういうのって宛先人に許可取らなあかんやろ?」
「あー確かに。んじゃ開けていいから内容お願い」
「はいはーい」
ビリビリという音がしていた。パサッという軽い音を拾っていた。
「んーとね。なんか色々お世辞が書いとる」
「まあ大人の文章だからな。念のためってやつだよ」
「大事そうなこと書いとるとこから読むな!」
「お願い!」
「えーっと、『さて、新倉様はいかがお過ごしでしょうか?これから熱さがより増していきますが、体調など崩していませんでしょうか?』って、ごめんこれもまだ大した話しとらん!」
どんだけ長いんだよその文章。俺は呆れるとともにその原文を見たくなった。
「『さて、このたび連絡を差し出したのは言うまでもありません。ご存知の通り、6月17日に鷹翅では地域交流会を主催しております。こちらの催し物の…』」
「あーおっけおっけ。ピアノ弾けってやつでしょ?去年も来てたけど破り棄ててたわ。つうかどの口でそんなの頼んでんだろうな」
俺はむかっときてしまって、その苛立ちを鎮めるために個室のトイレットペーパーを綺麗に三角折し始めていた。
「ほんまね。しかもこれボランティアやろ?……ん?なあ友一」
「どうした?」
「私も気づいたん遅かったんやけどさ、エイス?あの路上ゲリラライブしてるところ」
「eithe?」
「エイチェって読むんやあれ」
「まあ造語だからな。あんな英語ないし」
確かeightって書こうとしてあーなったとか言ってたけど、どうやって間違えたのか頭を抱えたくなった。
「あの人ら来るみたいやで」
「ふーん」
「で、もう話は通っていると思いますのでってきてて」
「ふー……はい?」
「最早当日来ること確定しているみたいな書き方されとるんやけど…」
初耳である。完全に初耳である。
「ちょっと詳細聞いておく」
「りょーかい!んじゃ、焼肉パーティ楽しんできてな!」
そうして俺は化粧室を出た。一刻も早く、塚原真琴と連絡を取りたかったのだ。




