6月3日その④
中々に実のある食事会を開いているように思えた方もいるかもしれない。しかしながらそれはまやかしである。本命の山形牛が届いたあたりで、年長者組が大暴れをし始めたのだ。
口火を切ったのは五領先輩だった。1番の年長者でありバイト歴も長い、謂わば学生バイトリーダーのような立場にある人が、突然胸をすっと寄せながらこんな話をし始めた。
「最近彼氏がぜんっぜん相手してくれないんだけど!!!」
ビールを乱雑に置く彼女は、まさしく酒乱そのものだった。
「え?彼氏さんってあのおんなじ大学の後輩さん?」
「いやあれは去年別れた」
柱本先輩はこれまで見たことのないような顔で驚いていた。
「先輩、これで男作るの何人目ですか…?」
「えーそんなでもないよー」
「柱本先輩の知る限りで何人目っすか?」
「25人目」
この言葉に樫田さんと辻子さんが一斉に噴き出していた。
「何やってんすか五領先輩」
「樫田君!違うんだって。それは付き合った人数じゃなくて抱かれた人数であって」
「余計ダメじゃん」
辻子さんの正論が飛んできた。場は爆笑に包まれていたが、高校生コンビは話についていけずポカンとしていた。
「そんなことしてるから彼氏が長続きしないんじゃないすか?」
「それは関係ない!あれは仕事が忙しいだけだから。向こうもそう言ってるし」
「でも五領先輩、昔付き合ってる男と別れたくてバイト忙しいって言っといて他の男に手を出してましたよね?」
「う、嘘はついてないもん!」
「本当のことも言ってないっすけどね」
男組の冷ややかな目線に、五領先輩は参ってしまったみたいだ。
「でも実際会社って時々そういう話出るからなあ」
「そういう話?」
「ほら、不倫だの浮気だの男女関係のもつれとかそういうの」
「き、聞こえなーい聞こえなーい!!」
「辻子さんがそれ言うと説得力あるっすね」
「五領先輩は頼むから彼氏作ったままでいて下さい。これは義務です。あなた彼氏居なくなった瞬間に寂しくなったって言って男求めに行くでしょ?」
「ハシラちゃん!ステイ!ステイ!ステイしないと山形牛もう一頭頼むよ!」
「否定はしないのか…」
恐らくこれでも、4人はセーブして居るつもりなのだろう。大人達の下ネタは高校生のそれとは大きく異なると、俺はAさんとBさんとの会話で痛感していた。あの2人、女の趣味だけはあうらしい。そしてそういう、いかがわしい話を自分のいる中でやるからなんとなく耐性はついていた。それに比べたらまだ、まだマシな話をしていた。ホテルでの所作の話とかしてないから、マシである。
まあ目の前の塚原真琴は、話に完全に置いていかれてガチでポカンとしていたけどな。この子は純情だから。純粋な子供のような女の子だから。多分抱かれたと聞いてハグしただけとでも思っているのだろう。それは流石にバカにしすぎか。
ブー!ブー!
バイブ音がポケットからした。電話だった。俺は一言添えてから席を立った。
「電話来たんで席立ちますね」
電話主は乃愛からだった。




