6月3日その②
「おいしいっす!!おいしいっす!!!!先輩マジでごちっす!!」
「真琴ちゃーん?少しは自重という言葉を覚えたほうがいいんじゃないかしらぁ?あんた今追加の注文見てたわよね?ねえ?」
「いやだって足りねえんすもん。あ、新倉先輩の分のホルモンもらっていいっすか?」
「どうぞー」
そう言いつつ俺は細心の注意を払ってタン塩を焼いていた。
「で?新倉君は何してんの?さっきからタン塩を焦げるギリギリまで焼いてるけど…」
「脂を極限まで落としたタン塩こそ至高。これとパサパサの赤身が2大双璧」
「味覚のセンスが30代になってるじゃんか!」
「ハシラ先輩、新倉先輩は昔っからこんな感じっすよ」
昔はもう少し脂っこいものも…いや食べていなかったな。その辺は塚原真琴に嘘をつけないし、つく気もない。
「私も最近肉の脂が追いつけなくなって来てね。胃に溜まって溜まって…もうおばさんだからなあ」
「五領先輩まだアラサーでしょ?まだまだ若いじゃないっすか!」
「樫田君?23のことをアラサーって言うのやめようか?」
確かに五領先輩はアラサーと言われても信じてしまうほど大人の色気があった。今日も胸元の大きく開いた黒のブラウスで、自身の胸をぐん!と見せていた。
「樫田君って何歳?」
「今年で22っすね」
「進路とかどうすんの?」
「やー福祉系の大学なんでもうだいたい決まったようなもんすよ。名前はまだ言えないっすけど、県内のどっかの養護学校じゃないっすかね?」
「そっかあ…」
「五領先輩は?」
「私?悩んでる。物理学科の院って工学系に比べて就活的に微妙だし、かといってドクターもなあって」
「会社なんて入るべきじゃないですよ。あいつら俺らのことそこら辺のゴミクズとしか見てないですからね!」
そう大声で割って入って来た辻子さんは、確か高卒で会社に入って半年でやめて、1年半開いてこのバイトで社会復帰した人らしい。だからか言葉の節々に説得力があったし、怨念のようなものも感じた。
「先輩方、大変なんですね」
塚原真琴が隣に座る柱本先輩に声をかけていた。通路側にいる塚原と俺、そして真ん中に座る柱本先輩は、その会話が遠い遠い未来の話に思えて仕方なかった。就職、進学。出来るのだろうか。する資格はあるのだろうか。
「柱本先輩はなんかあるんですか?将来のこととか」
「ないない!全くない!経済学部とかそんな奴らばっかよ。今楽しめればそれでいいって感じで、勉強とか全くしてないし」
「ほんとクソ」
「文系はそれがいいよねー」
「金払ってくれてる親に謝れ」
「ちょっと大人3人組!!なんでそんなに攻撃的なの!?」
ポケーッとした顔をし続けていた我々2人に対して、五領先輩は少し優しい声でこう言った。
「まあ、君ら2人には遠い遠い未来のことだよ、こんなの」




