そして彼女は過去を口にする
「あんたさ」
「ん?」
「悪いものでも食ったの?」
「食中毒とか?」
「そうそう、うちのバイト先でも最近食中毒になった先輩がいてね」
「焼肉とか?」
「…あんた詳しいわね」
「て、適当に言ってるだけだよ」
「ふーん、新倉に教えてもらったとかじゃないんだ」
「………」
「何その沈黙」
「違うよ」
「今言われても誰も信じないわよ」
「それもそうだね、あはは」
「…なんかあんた、本当に変わった?」
「昔とは違う人みたいだって?」
「ほんとそれ。違う人っていうか、別人っていうか」
「それ、真琴ちゃん同じ意味だよー」
「な、そういう細かいところは突っ込まなくてもいいのよ」
「ごめんごめん」
「ごめんと思ってないでしょ!ったく…そういえばさ、あんたの学校って髪染めありだっけ?なしだっけ?」
「別に大丈夫だよー。むしろ髪染めてる人の方が多いくらい」
「それは羨ましい限りね。私の学校その辺厳しくてさ」
「どこ通ってるんだっけ?」
「阿部仲」
「地元の高校ね」
「…昔のあんただったら、貧乏人にお似合いだとか、そんなこと言ってた気がするけど」
「そんなひどいこと言わないよー」
「…やっぱりなんとなく変な感じ」
「そう…」
「…………」
「……………」
ジョキジョキ
「真琴ちゃん」
「その言い方も嫌い」
「でも私からしたら、真琴ちゃんだし」
「…まあいいわ。それより、何?」
「まだ私のこと、怒ってる?」
「…………」
「…………」
「怒ってた、わ」
「うん」
「今あんたがここに来るまでは、ね」
「………」
「そういやあんた、ジャズフェス来てたでしょ?」
「っていうか、会ったじゃん。いきなり連れ出しちゃって」
「あーそんなこともあったわね。でもそれ、今のあんただったならわかるんじゃない?当時の私の気持ち」
「やっぱり怒ってたんだね」
「またひどいこと、あいつに言わないか怖くてね」
「…そっか」
「昔のあんた、本当にひどかったから」
「…そうだよね」
「………」
「ねえ、真琴ちゃん?」
「何?古村」
「私のこと、いつの時まで知ってるっけ?」
「………中学入るまで、かな?ここに来る前後じゃないかな?」
「そっか。じゃあ、それからの話をしようかな」
「ん?どういうこと?」
「私はね、今あの家には住んでないのよ」
「……はあ!?」
「私はね、もう鷹翅の人間じゃないの。話すと長くなるけどね」
「……」
「昔の私を恨むのはよくわかる。それは当然の話だよ。でもね、それと同時に今の私のことも知ってほしい。それが贖罪になるとは思わないけど、ね」
「はなしてよ。どうせ明日なんて、大したことのないテストしかないんだし。それに、私も興味あるわ」
「え?」
「あんなに傲慢だった古村お嬢様が、どうして今みたいな風になっちゃったのか、ね」




