4月6日その②
休憩は1時間だった。3時から夜の分の仕込みをして、本日の俺の仕事は終了である。客足も少ないし、そう聞くと結構暇に思われるかもしれない。実際店長も3時から5時は休憩しているから、実質俺ともう1人で店を回すことになる。今日は大学生の柱本さんとペアだった。ふわふわした髪型や幼げな顔つきは、女子大生より女子高生の面影が優っているように思えた。
休憩時間はご飯を食べる時間だ。2時間以上空くのであれば1度帰宅も考えるのだが、1時間なら戻って来るのが面倒だ。そして何より、従業員特権で2品無料で食べられる昼ご飯は、間違いなく家計を支えていた。
トマトサラダとうどんの札を手に取って、レジに並んだ。
「お会計は〜324円になりまーす!」
「…しっかりやってください」
柱本さんは舌をペロッと出しつつ、融通のきかない頑固者を見る目でレジを動かしていた。従業員特権なので、特別な処理が必要なのだ。
「はいオッケーです!うどんできましたらお持ち致します」
今度はキリッとした声で対応して来た。それはそれで違和感がある。柱本さんは高校2年生の頃から働いていて、受験期もずっとバイトしつつ、この春晴れて大学生になったのだという。あまり名前のきかない大学だったが、立派なものだと思う。
100人は優に入る広々とした店舗だが、その時はもう店内は10人も居なかった。それでも俺は遠慮して、2人用テーブルに腰掛けた。このタイミングで、俺はスマホを開けた。数件、通知が来ていたからだ。
『どや!盛り上がっとる!』
案の定それは乃愛からだった。パスコードを打ち込んで、写真を開くと、そこには若干照れながらも手を繋いでマイムマイムを踊る新入生達の初々しい姿が映されていた。そういや去年やったな、そんなの。
何でしているかは不明だし、正直最初に話を聞いた時は意味がわからんと思ったものの、これが案外楽しいのだ。というか、こういう馬鹿げたことに楽しさを見出す者共の巣窟が、我が藤ヶ丘高校なのだ。
写真はまだまだあった。超大人数ハンカチ落としの様子、肩を組んで校歌を歌う写真、そして思い思いのポーズをとる生徒会の面々……どれもが楽しそうで、輝いてみえた。
意外なことだが、乃愛は自分のことを結構話したがる傾向にある。というか俺には、しょっちゅう話している。だからちかちゃんという名前自体は知っていたし、そろそろ生徒会のメンバーも全員覚えてしまいそうだ。
恐らく反応が欲しいのだろう。そして何より知って欲しいのだろう。自分のしていることを、ありのままに理解して欲しいのだろう。その気持ち自体に、間違いなど1つも帯びていない。だが、俺にはもう1つ、とある訴えが含まれているような気がしてしまったのだ。
ー友一は、そういうことしないの?ー
「はーいお待ちしましたー!かけうどんでーす!」
どーんと雑に置かれたうどんの湯気を見て、俺は慌てて顔を上げた。無論近くでお盆をもっていたのは、柱本さんだった。
「んー?彼女ー?」
そう言ってスマホを覗き込もうとする柱本さん。もちろん全力で隠した。例えバイト先でも、設定に嘘をつかせないのは是非もないことだ。
「違います!早く帰ってください!」
そう懇願するので精一杯だった。




