5月29日その④
「いや流石に、悩み聞くだけにしとこう?」
竹川が何か言い出す前に、俺は釘を刺した。
「ほら、プライバシー的に良くないじゃんそういうの」
「ふふふふ、新倉君?そんな些事を私に投げつけてくるなんて、良い度胸!」
現田はニコニコしながらそう応対していた。ペン回しの要領でストローを回し続けている彼女は、先ほど言ったように新聞部の部長なのだが、その顔はまるで探偵のようだった。
「私からしたら全てのプライバシーはネタ(記事)へと昇華するのよ!特に古村さんは、生徒会長よ。我が学校の生徒代表、つまるところ総理大臣!ほら、総理大臣って、プライバシーとか微塵もないでしょ?そゆこと」
少し大きめの茶ぶち眼鏡をくいっとしながら、現田はどや顔で最低発言をかましていた。流石は学校入って来た当初、
「私のこの学校での目標は情報屋となってみんなのプライバシーを暴きまくることです」
などと言ってみんなをドン引きへ引きずりこんだ女である。というかうちのクラス、渡辺といい家田といいキャラ濃いの範疇に当てはまらない人間多過ぎだろ。俺はそう苦言を呈したくなった。まあそれはそれで俺の存在感が薄くなるからラッキーではあるのだが。
「というか、あんたどうやって調べんのよ。個人情報とか、今のご時世だと厳しいでしょ」
近藤が訝しげな目で見ていた。
「そこら辺はもう独自のルートがあるんだって!そりゃ日本全国までは無理だけど、こんな地方の公立高、たった320人くらい調べようと思ったら調べられるさ。ほら、私には…」
現田は自分のこめかみをツンツンと2回刺した。
「記憶力があるからさ」
どや顔する現田。先ほどまでお腹すいたとしか呟いていなかった人間とは大違いである。実際に、現田の記憶力はすごい。この記憶力とは、人と話した内容を日時も内容も漏らすことなく再現できる、という意味である。
「流石人間議事録」
「梅ちゃん死んで、どうぞ」
「それでも先に何に悩んでいるかについて知る方が先だろ。僕はそっちの方が気になる」
遠坂はそう言って宥めていた。そりゃそうだ。個人情報探られるとか溜まったもんじゃねえぞ。んなもん一発で全部バレてしまうじゃねえか。
正直、末恐ろしいとは思っていた。同じクラスになった時、こいつとはあまり関わりたくないと思った。良いやつなのはわかるのだが、いかんせん持ってる能力が有能すぎるのだ。
「りょーかい。んじゃ、しばらく彼女の動向追ってみる。でもなんか、水泳部関連なきがするけど」
「それには同意」
「おい梅野!同意すんな!それすなわち私らが悪いってことになるじゃん!」
そうしてその日は、終わってみたらマクドで駄弁って午後3時を迎えたのだった。さっさと帰りたかった。それでもこのLINEのメッセージのせいで、俺は帰るに帰れなくなったのだ。
『15時になったら抜けて、2人きりで話しようよ』




