5月29日その③
「私達はまあ一応さ、古村乃愛ファンクラブの一員じゃん?」
「なにそれ」
「知らねえ」
「バカじゃないの?」
竹川の言葉に、三者三様暴言で返し、遠坂だけはゆっくりと頷いて肯定の意を示していた。いや肯定するな、そのファンクラブに俺殺されることになるだろうし。
「しかしながら我々はあの子に対して知っていることが結構少ない!私はそう実感しているのよ」
「例えば?」
俺は棒読みにならないよう気を使いながら尋ねた。そして水とともにチキンクリスプを頬張っていた。
「出身小学校!」
知ってる。
「出身中学!」
知ってる。
「今どこに住んでいるのか!」
同居してる。
「好きな食べ物!」
ステーキと寿司
「ほおら、あんたなんか何1つとして知らないでしょ?」
全問正解なのだが。誰か数学IIの代わりにこの満点結果で単位をくれないだろうか。日頃の苦労に免じてそれくらい許されて欲しかった。
「会長って趣味なんなの?」
梅野はそう言いつつコーラをストローで吸って飲み干していた。
「なんもないなあって本人は言ってたよ」
近藤はイチゴ味のシェイクを堪能しつつ補足した。
「まあ忙しい人だしな」
「強いて言うなら読書とか?」
「それは遠坂の希望でしょ?」
「休日何してるんだろうね」
趣味の正解は雲を見ること。これは本人が言っていた。外では何もないよーというようにしているらしいが、何もないのと同じではないか。
休日の過ごし方は料理と水汲みだ。たまに図書館で本を借りて読んできたりしていた。だから読書は部分点くらいある。
って、なんで俺はいつの間にか採点する側に回っているんだ!?というか、人のこと散々無趣味だとかコミュニケーション取ってないとかなんとか言ってきたくせに、自分は結構秘密主義貫いてるじゃないか。いくら特定につながるようなことは言うなと俺から伝えられていたとしても、なかなかの有様だった。
「だから悩んでいるって言われてもあんまりピンとこないのよね。生徒会だって順調だし、水泳部…」
ここで少し言葉に詰まった。そういや言ってたな。水泳部、あんまり覇気がない的なこと。
「水泳部なら松戸も呼ばなきゃ…」
そう言って烏龍茶を机に置き携帯を取り出した遠坂に対して、先程からポテトとオレンジジュースが手から離れない竹川が指摘した。
「あーだめだめ、あいつ今頃彼女の家で勉強会してるから」
「……爆発しろ」
小声で物騒なことを言ったのは誰だ。まあ十中八九梅野だが。
「そういう訳で、今回はスペシャルなゲストをちゃんと呼んでるのよ!」
「お、ここまで口を開かなかったのはなんかの意図が!?」
「遠坂、あれは多分ただ飯を食べたかっただけだと思うぞ」
俺がそう突っ込むと、既に4個目に突入したビックダブルチーズバーガーをしっかり飲み込んでから、彼女は口を開いた。
「うわあああ!美味しかった!で?何々?会長の情報を集めるの?それとも、会長の悩みを炙り出すの?どっちでも私は大丈夫!」
ニカって笑ってその彼女、現田巴南は全てを理解して未使用のストローを回した。彼女の部活はまさしく、新聞部であった。




