5月29日その②
その日の放課後は、俺は勉強をするはずだった。三角関数も言う大敵と戦わなければならなかった。しかしどうだこの惨状は。午後1時、お昼ご飯も兼ねてか、俺は高校近くのマクドナルドにいた。勉強するためではない。訳のわからない会合に出席させられたからだ。
「それでは、第1回よくわからんけど乃愛を励ます会を始めたいと思いますー」
近藤はそう言っておーとやる気なく片腕をあげた。6人集まったうち、やる気のある返答をしたのは竹川ただ1人だった。
「つうか、なんでお前いるの?」
梅野はそう俺に対して言ってきた。直後に、
「いや、俺もなんでいるのかわかんねえけどさ」
とフォローするのも忘れていなかった。いや俺自身もなんでいるかわかってねえよ。ただ連れてきた輩は知っている。
「そりゃ、この子は気づいてたんだよ!遠坂みたいに生徒会で一緒なわけでもなく、私らみたいに水泳部で一緒なわけでもないのに、クラスで会うだけの一般人Aのくせして気づいてたんだよ!彼女が元気ないって」
竹川がそう力説していたが、残念ながら真実は残酷で、多分この中で誰より彼女と一緒にいる時間が長いと自負していた。そして、彼女の元気がない理由も少しは聞かされていた。
「へえええ、そうなんだ?」
遠坂は鋭い眼光をこちらに向けていた。
「なんとなくそう思っただけだ」
俺はそう軽く流した。
「ほんと、モブだと思ってたのにこれはなかなか素質がありそうじゃん」
「モブ?」
「モブよ。会長からしたらあんたはモブでしょ?どちらにも所属しない通行人でしょ?」
うーん、同居同衾している存在はその人にとってモブなのだろうか。そんな質問は彼女にとって鬼畜の極みだが。
「ちーのど、キャラ壊れてる」
「えっ?いや…ごめーん、ちょっときつい言葉使っちゃったかもー?」
え?まさかこいつ、気づかれていないとでも思っていたのだろうか。梅野の言葉でふっと我に変わって自分を偽る彼女に、俺は怪訝な目をしてしまった。俺だって最初から気づいていた。こけた手を心配してくれたあたりから、もうこいつ怪しいなと思っていた。決して胸を凝視してそんな考えすら浮かばなかったわけない。どこかの健全な高校生みたいなことはしていない。信じて欲しい。
「で、話進めよ?」
近藤は少しイラつき、とっとと会議を進行しようとしていた。何で彼女が進行役になっているのだろう。不適財不適所とはまさにこのことだ。
そんな風で、今日も今日で面倒な事態に巻き込まれたのだった。




