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5月25日その④

 次に乃愛(のあ)が目を覚ましたのは陽が落ちて夕飯どきが近づいてきた頃だった。当初こそ大きな寝息を立てていた彼女だが、最後の方には静かな音に変わっていて、肉を焼く音でかき消されていた。


「んにゃんにゃ…」


 むくりと起き上がった彼女は、なぜ掛け布団がかかっているのか、今何時なのか、この香ばしい匂いは何なのか、色んなことに混乱して頭をぶんぶんと振っていた。


「あー起きたか?乃愛。今の時刻は6時半で、晩飯作ってるとこ」

「へ?私そんなに寝てたん!?」

「たった3時間くらいだろ?」

「いやいや3時間って結構な時間やで。そろそろ保健体育の勉強しとかな…」


 乃愛はワンテンポ待ってから尋ねてきた。


「もしかしてさ、今日の晩御飯って…」

「ステーキだぞ。リブ肉だけどな」

「え!?!?でも、友一ステーキ苦手やろ?」

「いやいや、たまにはこう言う脂っこいものを食べるのもいいかなって思ってさ。スーパーに安いお肉が売ってて良かった」

「しかもその隣にあるのは…」

「ん?卵スープだけど?後ポテトサラダも用意しておいた」


 そうだ、これは全て乃愛の大好物だ。


「ほら、明日からテスト大変だし、こういうのもアリだろ?」


 あえてニコッと笑った。乃愛は少しだけ複雑そうな顔をしていた。お節介と思われるかもしれない。こういう恩着せがましいやり方に、目くじらを立てられるかもしれない。でも俺からしたら、励ます方法なんてこれくらいしか知らなかったのだ。ここでほっておくことができないのは、確実に俺の心の弱さだった。


 乃愛は無表情を作ったのちに、頬をパンパンと2回叩いた。結構いい音がしていた。少なくとも飛び散る油の音よりは響いていた。


「ど、どうしたん……」

「色々言ってられんな。ほんま」

「!?!?」


 彼女の低い低い声を聞いて、少しだけ背筋が高揚したのは内緒の話だ。


「でもな、友一。これだけはほんまに思っとるんやで。いつもいつもありがとうって、それだけは毎日思って生きとるんやで。もう今となっては、友一なしで生きていくなんて私には無理やからさ。だからな、それだけは理解しとって」


 神妙な顔をする彼女を見ると、少しだけ背筋が凍結してしまった。先程とは真逆で、体の芯から彼女のその顔を見たくなかったのだろう。


「何お前そんな恥ずかしいこと言いだしてんだよ」

「な、ええやんそれくらい」

「別に、そんなこと思わなくていいんだよ。好きに生きたらそれでいい、だろ?」


 そして俺はステーキを皿に移した。焦げ目もしっかりつけて、彼女好みに。


「ほら、晩飯にしようぜ」


 そこから2人は、取り留めのない話をしながら、しっかり味わってご飯を食べたのだった。

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