表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/365

5月25日その③

 塚原真琴の家は理髪店だ。そして自然と、彼女の将来の夢は美容師になっていた。だからよく俺たちの学校に対して憧れていることを打ち明けていた。髪の色弄れて良いなあとか、私の学校では難しいとか言ってた癖して、昔より茶色っぽい髪の毛になっていることは内緒だ。染めているのか地毛が変色したのかは不明だが。


「あの子って、理髪店の娘さんなの?」

()()()()()()

「なるほど…」


 腕を組んで考え始めた乃愛(のあ)。それを尻目に重要単語を書き留めては必死に覚えようとする俺。我ながら性格の悪いやつだなと思う。だってこんなの、彼女からしたら断るに決まっている選択肢…


「わかった!真琴ちゃんに全て話してきたらええんやな!」


 ………????


「私はね、今は新倉(にいくら)友一君と一緒に住んでて…」

「絶対にダメだ!!絶対に!!」

「じゃあ千円散髪に行かせてや!!」

「くそう、お前逆襲してきやがったな」

「性格悪いことしとるからそういう風に自分へと帰ってくるんやで!これを教訓にして私にお金を渡すんや!!」


 やばいな今日の会話、さっきから何1つとして前に進んでいないぞ。いつもならもっとポンポンと流れていくというのに、よっぽど髪の毛が気になって仕方ないらしい。俺からしたら何1つとして変な所なんてないから、髪の毛を切る必要なんて何1つとしてないと思うのだが、それは無神経な対応というやつなのだろうか。


「なあ友一」


 そんなことをグダグダと考えていたら、ふと暗い声で彼女は尋ねてきた。


「友一は今、真琴ちゃんと一緒のバイト先で働いとるんやんな?」

「そうだけど?」

「私のこと、なんか言ってきたりしとる?」

「え?そんな…」


 話題が出ないというのは嘘だ。ついこの前も、ライブ会場に乃愛がいたことに対して咎められたばかりだった。


「私、まだ嫌われとるかなあ」


 それに対しても否定できなかった。そして俺は、頭をかいてお金を差し出した。


「ん?友一?」

「塚原の名前を出した俺が悪かった。ほら、お金あげるから美容院でも理髪店でも千円散髪でもどこでもいいから行ってこい、な?」


 ここでいつもの乃愛なら、二つ返事でお金に食いついていただろう。しかしこの日の乃愛は、そのお金に対して反応しなかった。俯いて、深く深く息を吐いていた。


「やっぱりさ、友一は優しすぎるよね」


 そしてゴロンと、寝転がってしまった。


「嫌味ちゃうよ。自己嫌悪しとるだけ。私って、あんたに甘えられてばっかで駄目な女やなって」

「そんなことないけどな。飯作ってくれたり水汲んできてくれたり助けられてることも多いし」

「だって本当は、お金払わなあかんくらいやん。あんたに」


 乃愛はそう言うと、明らかに気落ちした顔をしていた。


「気にせんで、あんたのせいとちゃう。ここんところ結構こんな感じやねん。自己嫌悪と無力感で勝手に落ち込んでる感じ。何もやる気になれんし、すぐぼーっとしてまう…」


 そして彼女は、SOSのように寝息を大きく立て始めた。これまでの落ち込みや不安とは質の違うそれに、俺は掛け布団を与えることしかできなかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ