少女はお節介を始めた。
「最近、乃愛の様子がおかしいんだ」
今彼女の名前を彼女以外から聞くと、ドキッとして仕方なかった。昼休み、その日はたまたま生徒会の仕事で抜けていた乃愛と遠坂を尻目に、新倉君と2人でご飯を食べようと思ったけれども誘う勇気が出ず、途方に暮れていた私を回収したのはのどかちゃんだった。我ながらヘタレだなあと思いつつ、流石に知り合いがこんなにいる中で2人きりご飯は恥ずかしいと自己弁護していた。そして彼女は、開口一番こんなことを口にし始めた。
「ど、どうおかしいの?」
「なんとなくぼーっとしているというか、何か別のこと考えているような、そんな感じがする。ちかちゃん去年から同じクラスだよね?私は水泳部と生徒会長の乃愛ちゃんしか知らないけど、クラスではあんな感じだったの?」
私はここ数日の彼女を思い出す。別に変なことはなかったと思う…新倉君の電話口に出たのが彼女じゃなかったなら。いやいや、私は首を振る。新倉君が嘘をつくわけないじゃないか。あれは彼女とよく似た声の姉だ。実際確信があって乃愛の声だと言ってるわけでもないし。
「そんな変なとこあったかなあ。あんまり私わかんない…」
「なんか最近遠坂のボケと仲良さそうだし」
ここは小声だ。所謂ブラックのどかちゃんだ。
「仲良いの?」
「いーやあれは調子乗ってるね。今までは生徒会で同じってだけで満足してそうだったのに、欲が出てきたね。私にはわかる。うん」
まあのどかちゃんも同じようなもんだしな。シンパシーでもあるのかもしれない。
「大体あの4人組が良くないんだって」
「あの4人組?」
「会長、遠坂、新倉、そしてあんたよ!」
ピシッ!控えめに指を刺されてしまった。
「え?な?なんで??」
「いやだって、あんたは新倉狙いでしょ?」
「!?!?!?!?!?!?」
「いや隠さなくてもわかるし。男の趣味独特だなあとは思うけど」
のどかちゃんは男女問わず見目麗しい人が好きだから、新倉君は評価しないだろうな。良い人なのに。かっこいいのに。少し膨れたくなるのを我慢した。
「で、新倉みたいな人間があんたのアプローチを断るわけないじゃん。見ただけでリア充経験なさそうだし」
「そ?そうかなあ…」
「……あんた、知らないかもしれないけど可愛い部類なのよ。髪が赤くなかったら、もうちょい男寄り付いてるわよ」
それだったら、赤い髪を褒めてくれる新倉君の方がいいな。
「そうなって2人付き合い始めたら、残りは2人じゃん。付き合うじゃん!?許せないじゃん!?!?」
「な、中々にスピード展開ね」
「いーやそうなる!!よくある話なのよ。男女グループは往々にしてみんな付き合って、誰か破局して終わるのよ。あるある過ぎて反吐がでるわ」
へ、へーそうなんだ。私は目が点になりつつ話を聞いていた。その辺は、色んな意味で経験豊富なのどかちゃんに勝てやしないからだ。
「対策を立てないと…この未来だけは避けないと…」
「のどかちゃんはさ!」
少し裏声になってしまった。ん?って顔をするのどかちゃんに対して、私は恐る恐る尋ねてみた。
「私がうまくいくの、反対?」
「何言ってんの?」
思ったよりも早い返答が返ってきて、私はびくってなってしまった。
「あんたらはどうでもいいのよ。出来ればくっついて欲しいくらい。私は、乃愛ちゃんさえ毒牙にかかんなかったら、それでいいの。わかった?」
そう言って少し笑顔が溢れるのどかちゃんは、どこまでも真っ直ぐな人だと思った。ここで賢い人なら上手いこと彼女を焚きつけるんだろうな。でも私は馬鹿だから、そんなことできないししたくない。出来ることといえば、
「わかった!ありがとうね、のどかちゃん」
とお礼を述べることくらいだった。




