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5月21日その⑧

「で、結局そのまま勉強会し続けたのも反省点やと私思うんやけど」


 反省会第2弾は帰ってきた後のいつもの卓袱台にて開始されていた。明日から学校だからと早めに帰ってきたにもかかわらず、である。まあもうお互いシャワーを浴び歯磨きを完了した後だから、いつでも寝れる態勢なんだけれど。


「いやそれはまあ2人が遅れてくるからじゃね?」

「え?それ関係ある?」

「2人が遅れてくるからわかんない問題が増えて、来た時には大量に溜まってる状態で、それを消化してたら昼ごはんの時間で、そのままフードコートでご飯を食べつつ勉強を教えてたら遊ぶには微妙な時間になった。そうだろ?」


 俺は端っこに避けられた卓袱台に肘を置いていた。乃愛(のあ)は布団を取り出して引いていた。


「……聞いてるか?」

「うん」

「お前から始めた議題だぞ」

「だから聞いとるって。やっぱ布団入った状態でせん?もう私眠うてしゃーないねん」

「それは同感だな」


 そして2人して布団に入る。決まって右側が俺、左側が乃愛だ。電気を消して、暗順応が済む前に乃愛は口を開いた。


「で、何やったっけ?親がいないことをどう取り繕うかについて語ってたんやったっけ?」

「おばあちゃんそれは2時間前に話したでしょ?」

「な!!!人を年寄り呼ばわりするなー!」

「自分から振った話題忘れるとか、ボケたばあちゃん以外何だって言うんだ?」


 そして少し間を開けて、ポツリと呟いた。呟いてしまった。


「まあ、俺にはおばあちゃんなんて居ないけどな」


 それに対して、乃愛は同情も憐憫も入り込まないほど明瞭に尋ねた。


「親御さんが居なくて、辛かったことってある?」


 俺は少しトーンを落とし、これが真実だと伝えるかのごとく声を曇らせた。


「ないな。一度もない。もしも感じることがあるとしたらそれは、万が一自分に子供が出来た時だろうな」


 そんな想像、17の自分には難しいことだけれども。続けて俺は尋ねた。尋ねてしまった。


「むしろ乃愛の方が辛くないか?親御さんが居なくて」

「え?」

「だって、乃愛には親がいたじゃん。最近まで」


 これは眠気からくる無遠慮さだ。この休日を振り返るかの如く無神経さだ。人の眠気は、時に大きな失敗を引き起こし、時に頓珍漢な回答を叩きつけ…


 時に人を大胆にする。


「そうやね…ちょっと辛い…かも」


 そして彼女は、服の裾を掴んだ。つまむように掴んだ。右半身の鎖骨に布越しで乃愛の手が当たっていた。そしてそれを少しなぞるように、すっと指が通った。


「寂しい…」


 ねじ切れるような声を出しつつ、乃愛は寝息を立て始めた。横向いた身体が俺の方へ向けられていた。俺は彼女の手が、どこかへ行ってしまわないように、いつもより体を寄せて就寝したのだった。

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