５月２１日その⑤

「なあ、近藤(ちかふじ)」

「どうしたの？新倉(にいくら)君」

「この問題わからないんだけど、教えてくれね？」

「いや私には無理よ。それ何？」

「ベクトル」

「いや無理だって。むしろ私が聞きたい。 このaとかbの上についてる→何よこれって感じ」

「それ基礎中の基礎の、その手前じゃねえか」

「……流石に冗談よ」

「まあ、そりゃあな」

「ガチな話をすると、この問題がわからないレベル」

【a=(2,-1)，b=(5,2)のとき，p=(8,5)をp=sa+tbの形で表せ】

「え？それは方程式２つ作るだけじゃね？」

「なにそれ？」

「あれでしょ？2s＋5t＝8と-s＋2t＝5を連立して出て来た数字当てはめるだけでしょ？」

「えーと、9t＝18…t＝2…s=-1。p=-a+2b。ってこと？」

「そういうこと」

「なんでこうなるの？」

「へ？」

「なんでこんな計算するの？」

「や、そこまではわからんねえけど…」

「そうなんだよねー数学ってなんでこういう計算するのか掴めないから嫌いなんだよねー」

「それはわかる。だからいっつも暗記ばっかり」

「だよねー。で、もやもやしたままだから試験の時に公式とか解き方とか忘れちゃうんだよ。どうしたらいいと思う？」

「賢い人に聞いたらいいんじゃね？一向に来ないけど」

　時刻は9時半を差していたが、未だに2人は到着する気配がなかった。どういうことだ？遠坂(えんさか)は何か企んでいるのかもしれないけれど、乃愛(のあ)はなんでだ？？あのタイミングで起きて、もしかして二度寝を決め込み始めたのだろうか。

「連絡はしてるんだっけ？」

「うんしてるよー」

　近藤はそわそわしつつスマホを見ていた。どういう感情なんだろうな。自分みたいな静かで特に興味関心もない人間と2人きりなんて、嫌じゃないだろうかと心配してしまった。

「まあ仕方ない。2人が来るまで俺らだけでわかるところまで頑張って解こうぜ」

「うんそうしよう！んじゃ、私のわからなかった問題教えてくれたんだし、今度は私が君のわからなかった問題を考えるよ」

「え？ほんとに？」

「あ、今どうせ聞いてもわかんないって顔したでしょ？いいから見せてみなさい！大丈夫よ一昨日の数学の授業は珍しくちゃんと起きて話聞いてた…」

【四面体 OABC において，辺 OA，OB，OC の中点を E，F，G，辺 BC を 2:1 に内分している点を H とし，直線 EH と平面 AFG の交点を I とする。

　OA=a，OB=b，OC=cとするとき，OIをa， b ， c を用いて…】

「……………」

「平面ベクトルは何となく理解できたんだけど、空間になると忽ち理解出来なくなるんだよ。他にもさ、中点とか重心とか出て来てその辺覚えてないし…」

「……………」

「近藤？」

「……………」

「……この問題は後にしようか」

「………うん」

　こうして2人が到着するまで、数学できない自分と勉強できない近藤と2人で必死に数学のテスト範囲を勉強していたのだった。