5月21日その②
自転車は無限の可能性を秘めた乗り物だと思う。俺はその朝、交通ルールだけはギリギリ守りつつも全力疾走でイオンまで向かった。結果として、向こうに着いたのは9時5分。いつもなら40分はかかるであろう集合場所に、その半分の時間で着いてしまった。俺はふらふらになった足腰を必死に叩きながら出入り口に向かった。
近藤はすぐに見つかった。前回の遠足とは違い、薄紅色のワンピースを着ていた。ノースリーブと言うのだろうか、肩をしっかり出しているあたりが彼女のキャラのマッチしていた。腕には何本ものミサンガをつけていて、肌は腕の付け根の部分以外しっかりと焼けていた。近年は高校生でも日焼けを気にするらしいのだが、そんなもの気にも留めていない様子だった。
俺の姿を見かけてブンブンと手を振っていた。帽子をかぶっているシーンを多く見てきただけに、赤色の髪が太陽にしっかり照らされて映えているのを見たのは新鮮だった。
「ごめん遅れて!」
とふらふらになりながら謝った自分に対して、近藤はむしろ驚いた顔をしていた。
「いや全然大丈夫!というか、新倉君遅れるって連絡したのさっきだよね?めちゃくちゃ早くない??家そんなに近い…わけではないか」
近藤は疲労困憊な自分を見て、遠くから飛ばしてきたのだと悟った顔をしていた。吹き出る汗が止まらなかった。5月でも、下旬となれば中々に気温が高いのだ。
「大丈夫?Sea Breezeいる?」
「有難い」
そう言って素直に差し出された制汗スプレーを体に振り巻きつつ、イオンに入っていった。
「あれ?他の2人は?」
「2人とも遅刻だってさ」
「時間にルーズだなあ。人のこと言えないけど」
「いや5分以内ならセーフだよ。セーフ」
そして4人掛けのテーブルに腰をつけた。フードコートは開店5分、無論人はまばらだった。俺は真っ先にウォータースタンドまで向かっていった。紙コップを4つとって、テーブルに持っていった。
「あ…ああごめんね。疲れてるのに…」
「全然、せめてもの詫びだって」
ソファ席に俺は腰掛けた。硬くない場所に座るのが、心地よすぎてなれなかった。
「めっちゃ気ぃ回るよね、新倉君って」
「そうかな?」
「自転車も直してたし、料理だってできるし、生活スキルが高すぎてびっくりするよ」
そう言われつつ勉強道具を出す俺と違い、近藤は出すそぶりすら見せなかった。
「ふつーに気になるんだけどさ」
そしてここで俺は、1つの選択に迫られることになった。それはこの問いである。
「新倉君って、妹さんとかいるの?」
この問いの根拠を俺は知っていた。恐らくそれは、先程うっかり載ってしまった乃愛の寝起き声だった。




