5月20日その②
「あーもう!勉強にしよ!」
次の夜、バイト終わりにひとっ風呂浴びてさっぱりしていた俺を尻目に、乃愛は英断を下したようだ。
「ほらな?学生の本分は勉強なんだし、中間テストも差し迫ってるんだ。それが普通、一般人の考え方ってやつだぞ。わかったなら今すぐ俺に三角関数とベクトルを教えてくれ。特にベクトル、文系脳には理解が追いつかねえ」
「はいはいテスト前にな。そうやなくてさ、この4人カラオケは遠坂君が苦手やし、映画は私寝るし、ボーリングは最近行ったし、ショッピングする金はないし、ガチで手がなくなっとるんやけど」
まあ日頃遊びに行かねえからな俺たち。あってそこら辺の神社回ったついでに水を汲むくらいだが、それも殆どがバイト中乃愛がやっていたことだった。
「スポッチャとか?俺は嫌だけど」
「……ほらすぐ嫌とか言うー!ただでさえ遠坂君が色々嫌がるのに、それ以上やなあんた」
「何で休日に身体動かさなきゃいけねえんだよ。ゆっくり休みたいっての」
「勤労パパかあんたは!!もっと家族サービスせんと逃げられるで」
乃愛はふううと息を吐いて、そしてスマホを打ち始めた。俺はまだ乾きの甘い後頭部付近の髪の毛をタオルでわしゃわしゃと拭いた。勿論のことだが、ドライヤーは乃愛専用だ。彼女からちょいちょい使ってみたら?と誘われるが、生まれてこのかた使った記憶がないから壊してしまいそうで怖かった。
「その代わり、午前中は勉強にしよう!1日中やったら文句言う子がおるし、何より私が嫌や」
「まじかー」
「そっからは…イオン適当に回っとこか」
「おー適当になったぞ!?というかそれ、勉強場所絶対にフードコートよな?」
「うん」
満面の笑みで乃愛は答えた。
「適当に駄弁って終わる気しかしねえ」
「まあまあまあ、適当に話すってのも楽しいもんよ。というかもう計画立てるの疲れた!何で私がやってとるんやったっけ?」
「知らねえよ。言い出しっぺの近藤が野球部で忙しいってのだけは知ってるけど」
「だいたい男たちが情けないのよ!あんたら絶対デートプランとか決められんくて、女の子イライラするやつやで」
「は、なんとでもいえ」
ぽけーとした顔をしていたら、乃愛がポツリと呟いた。
「まあ、私としてはデートよりダラダラとしてる方が好きやけどな」
本当は全部聞こえていたのだが、俺はお約束のようにこう尋ねた。
「へ?なんて?」
「なんでもない!」
このやり取りをしておくと、自然とドキドキしないですむ。自分なりの対処法だ。
「つう訳で朝9時に学校近くのイオンのフードコート集合、おけ?」
「おけー」
どうせ一緒に向かうだろ?というのはしてはいけない突っ込みだ。
「ぐだぐだになっても知らんで」
「むしろその方がいいまである」
にたりと笑ったら、向こうもそれを返してきたのだった。




