5月17日その①
いつだって自分は、自分の感情に対して鈍感だ。全てが終わった後で、ぶり返してくるように感情がやってくる。自分がどう思っているか、自分すら気付かず振舞っている人間なんて、世界でどれだけいるのだろうか。そう悩むほどに、その時も感情が追いついてこなかった。
「なあ、新倉、本当に申し訳ないんだけどな」
水曜日の仕事終わり、覚悟していた呼び出しが来た。
「金曜日、バイトに入ってくれないか?」
今日になって連絡が来たのだ。柱本先輩が、食中毒で入院したと。恐らくサークルの新歓で焼きの甘いお肉を食べたのが原因らしい。おかげで今日は大変だった。うちのように弱小チェーン店は1人の欠員が大きく響く。だからこんな申し出が来るのも重々承知していた。
「なんかクラスの集まりがあるのは理解してるんだが、こっちも他の人達が授業とか法事とか言われて断られてしまってな。夜の分は全部俺がやるから、昼間だけは塚原と俺と3人で回したいんだ」
真っ当な申し出だ。むしろコンプライアンスの低い人なら、夜すら高校生の我々に手伝わさせるだろう。それでも俺は良いのだが、どうやら法律が許してくれないようだ。
「ハシラは日曜から復帰するから、代わりに日曜日開けるから、対応してくれないか?」
「はい、わかりました」
そう答えたら、何故か頼んでいた店長の方が拍子抜けな表情をしていた。
「い、いいのか?」
「はい。仕方ないですし」
「本当にすまんな」
「いえ別に。仕事ですし」
「後でハシラに美味しいもの奢ってもらってくれ。あいつ、BBQでじゃんけんで負けてほぼ生の肉食ったらしいから」
「バカですね」
「ほんとな」
2人で談笑したら、すぐに店長部屋から出た。
「それでは、よろしくお願いします」
「こちらこそ、本当に助かった。ありがとう!」
深々と頭を下げる店長。そんな暇があったら下に降りて客の対応したら?と言いたくなったが、今日は恐らく樫田さんと五領さんが客をしっかり捌いてくれているのだろう。
「失礼します」
と言って、振り返らずに去っていった。自転車置き場へ向かうまで、スマホを動かしながら歩いた。危ないって?そんなことは承知の上だ。
クラスの誰に連絡したらいいのだろう。とりあえず最初に送って来たのは古森だ。じゃあ彼女に連絡するのかな?そう思いつつも、最初に開いたのは乃愛だった。いやいや、彼女は帰宅した後で話したらいいじゃないか。俺は俺自身の癖を嘲笑いつつ、結局2-8のLINEに書き込んだ。どうせなら全員に知らせておこう。
『バイト入れられたから金曜日のボーリング無理になった、ごめん!』




