5月15日その④
そういや今日は全く乃愛と話してないなと思っていたら、どうやら水泳部が忙しかったらしい。
「ほら、私ら先週末大会やったからさ。使ったお金の精算とか結果の報告とかミーティングとかあってな…」
「確かに竹川とか梅野とかもあんま見なかったな」
「そうそう、もう私ら3年生はほぼ残っとらんから、2年生中心にせなあかんくてな…はあー」
バイトから帰るといつもの乃愛がいつも通りゴロゴロしていた。既に風呂も済ませている辺りガチでオフモードだ。
「しかも何で市大会すらろくに勝てへんようなっとるねん。公立1位で抜けたん私だけって」
「まあ基本は個人競技だしな」
「そりゃそうやけど…メドレーやってあんのになあ…まあ部活なんてそれぞれのモチベでやるもんやし、勝つんが全てやないんは知っとるけど…もうちょいピリッとして欲しいというか、頑張りました!って感じ出して欲しいというか…」
乃愛はぐちぐち言いつつ布団を敷こうとしていた。俺は急いでごちそうさまをして、食器を片付けた。卓袱台を脇に寄せないと、布団すら敷けないのだ。
「ぐだぐだ悩んでもしゃーないし、寝よ」
「歯磨き終わったか?」
「今から!」
そう言って食器を洗う俺の隣に来た。歯磨きをするのだろう。そう思っていたら、立ちっぱなしで話し始めた。
「なあ友一?」
「どうした?」
「青春って何なんやろね」
知らね、と即答していただろう。相手が他のクラスメイトだったなら。乃愛だから少し押し黙って彼女の意見を聞いてみることにした。
「部活頑張るんは青春?クラスで行事頑張るんは青春?それとも、誰かと付き合うんが青春?」
「全部じゃね」
「そっか…」
「いや知らねえけど。考えたこともねーし」
そして洗った食器を立てかけてから、パッパッと手を払った。
「そもそも青春ってのは時間的な概念だろ。幼少期、青年期、成人期のうち、青年期にしたことが青春なんじゃね?」
「その定義ならさ、私ら…」
乃愛は一旦言葉に詰まった。再び話し出すまで少しかかってしまっていた。
「いや、私は、真っ当な青春ってやつを送れてるんかな」
「知らねー。古村乃愛がどんな青春を送りたいかによって変わるだろ」
「新倉友一はあれやろ?学校に行くことこそが青春の全て、とか言いよるんやろどうせ」
「お、よくわかったな」
「どやあ」
そして乃愛は歯磨き粉をとって、少しだけ水をつけた。俺はシャワーでも浴びてこようかな。そう思って部屋を出ようとしたら、まだ歯ブラシを持ったまま乃愛が呟いた。
「友一、もしも私が邪魔になってもうたら、自分からちゃんと追い出すんやで」
「ばーか、逆だろ。俺が邪魔になったら、自分からしっかり出て行くんだぞ」
この返しを秒でできるのは、何の遠慮もない証拠だ。それは良いことであり、張りがないとも評されるだろう。
「それも青春なん?」
「それが本当にやりたいことなら、な」
また2人してわけわかんないこと話しているなと思いつつ、彼女が歯ブラシを加えると同時に部屋を出たのであった。にしても今日は、どこか桃色の話が多かった気がした。まあ高校生、普通はこんなものなのかなと、普通じゃない自分はしみじみと感じていたのだった。




