5月15日その②
その日の昼休み、我がクラスは中々にざわざわしていた。そうした喧騒に興味のない俺は、いつも通り乃愛の弁当を平らげていた。いつもの1.2倍おかずの乗った弁当は、彼女の言うように確かに美味だった。少し申し訳なくなったので、今度アイスでも買って帰ってやろうかな。勿論ガリガリ君だが。
「女子たちの悲鳴が聞こえて来たんだけど、何があったんだ?」
「遠坂、俺に聞いても何一つ響かねえぞ」
確かに遠くで高見と真砂の悲鳴がこだましていた。何人かが急いで教室を出て行っていた。まるで有名人のスクープのような騒ぎようは、到底一地方公立高には似合わないものだった。
「有名人でも来たのかな?」
「こんなとこにか?」
「ほら、最近流行りだろ?有名人がぶらっと街歩いて回る系のバラエティ」
そうなのか。家にテレビなんぞ勿論ないから、最近のバラエティの流行りなんて知る由もなかった。
「そんな大したもんじゃないよ。全く」
そう言って我々の会話に入って来たのは、食堂に併設された購買でパンを購入していた近藤だった。
「有田と結城が1年の女の子と家田さんと食堂で昼ごはん食べてる。それだけ」
「僕は知らなかったけど、結城くんってそんなに人気だったのか」
「いや、有田の方だろどう見ても」
サッカー部エース、イケメン、高身長。我が学校にファンクラブなるものが存在するとしたら、1番可能性のあるのは間違い無く彼だ。同じイケメンでも女の子と遊びまくってる今野や、色々と残念な渡辺と違い、正統派なプリンスとして人気が高かった。
「つうか飯一緒に食べるだけでそんな状態なのか?」
「有田くん、地味に女の子と飯食べることなかったからね。しかも相手は家田さん。意外だったんじゃない?」
「なるほど…僕にはわからない世界だ」
大丈夫だ遠坂、俺もわからん世界だ。
「というか、今日は昼練ないのか?」
「私?野球部は昨日公式戦だったから昼練休み。ほら、本番近いのに怪我したら勿体無いでしょ?」
なるほどと感心しつつ、俺は手作りのハンバーグをもぐもぐと食べていた。
「にしてもうちのクラス、色恋沙汰に敏感だよな」
ふっと遠坂が呟くように言った。
「……」
「あれ?特にそう思わないの?新倉君」
「いや、特に興味ないだけ。俺関係ないじゃん」
「え?」
「誰が付き合うとか付き合わないとかどうでもいいし、俺自身もどうせ蚊帳の外だろ」
そして乃愛の弁当を平らげた。パンと手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「あ…おう…」
「次の時間移動教室だっけ?早く行こうぜ」
なぜか2人とも、俺を奇異な目で見ているような気がした。気のせいだろう。おかしなことなんて、ひとつもしていない。それだけは自信があった。




