いつか前の日の夜
名前は呪いだ
何かの関係に名をつけてしまうと、それは忽ちその枠組みに収まるような関係になってしまう
友達だといえば、友達らしい人間関係になる
恋人だといえば、恋人らしい人間関係になる
赤の他人といえば、深い人間関係にならないだろう
私には、それが呪いに思えて仕方ない
とある人間関係に名前をつけているのではなく、名前をつけてから既存の人間関係を規定している
そんな気がしてしまうのだ
それが無性に気にいらないのだ
じゃあその、既存の人間関係に当てはまらないのならば、それをなんて形容すべきなんだ?
そう思ってしまうのだ
結論から言おう
私達の関係に、名前などつけない
何故ならその名前は、必ず枷となってしまうからだ
それは絶対に消えぬ呪いとなって私達を蝕むだろう
私達は赤の他人ではない
友達でもない
恋人でもない
兄妹にもなれない
単なるクラスメイトでもない
単なる知り合いでもない
互いを愛し合う仲ではない
でも、無関係ではない
簡単な言葉で形容できる2人ではない
だから名などつけない
自明なことだ
「AでもBでもない」関係が、私達の真実なのだから
規定の人間関係には収まらないのだ
でもそれが、そんな関係が、いつまでも続くわけがない
そんなこと、本当は全部わかってた
そんなこと、互いが知り合った最初から全部わかってた
でも今は
まだ今は
それに縋らないといけない
縋らないと生きていけないのだ
隣で寝ている君を見ながらそう思う
いつか壊れる関係
いつか呪われる運命
そのいつかをどこまで先延ばしにできるのだろう
わからない、わからないけど
隣の君の温もりが、私にはまだ必要だった
そっと君の右手に私の左手を置く
横にそっと添える
そして同じ布団で夜を明かす
明けない夜を過ごしている
Neither……nor……
いつまでこの戯言を使えるのだろうか
ぼんやりとした不安とともに、私は再び眠りについた
君の隣で、眠りについたのだった




