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おっさん冒険者ケインの善行  作者: 風来山
第三章「魔女マヤ」

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23.ゴブリンの巣窟の壊滅

「やったわ! 今の見たマヤ! 百八人の討伐隊の頂点に立つケイン。Aランクごときの雑魚に挑発されても、相手にせず颯爽と去る。人間としての格が違うわよ格が、胸がスーッとしたわ!」


 剣姫アナストレアがゴブリン討伐隊に行ったら、頂点は普通にこの子になるわけだが。

 ほんと隠れて見守って、何をやってるんだろうかとマヤはため息をつく。


「ケイン様、素敵……」


 聖女セフィリアもうっとりだ。

 もうケインがやることならなんでもいいんかいとツッコミたいところだが、この子らに付き合ってるマヤも大概ではある。


「はぁ……それで、どうするんや?」

「そうね。道すがらだいぶモンスターを狩ってきたけど、巣窟のほうも先回りして適度に始末しておこうかしら。あくまで、ケインの成長のために弱らせる程度にしておきましょう」


 ケインの後を付けている間も、アナ姫たちはモンスターを倒しまくっている。

 ゴブリンだけでなく、クコ山では本来見ないはずのオークやオーガまでも出没して、山は危険な徴候を見せ始めている。


 元からクコ山に生息しているゴブリンたちは、おそらく強い個体を生み出していることだろう。

 全滅させておかなければ、人里にも被害が及ぶ。


「じゃあ、アナ姫! セフィリア! ちゃっちゃと行くで!」

「わかったわ!」「はい!」


 そもそも、万能の魔女マヤは巣窟を山狩りして探す必要などないのだ。

 モンスターの集まっている場所ぐらい、探査サーチの呪文で一発でわかるのである。


 思えば近頃マヤは、ストレスが溜りっぱなしであった。

 そして、ぶっ殺すのに手頃なモンスターがうじゃうじゃいる大巣窟を見つけた瞬間に、何かがプツリと切れた。


「よっしゃー、まずうちから行くでェェ! 万物の根源よ、天地の法力よ、我がマヤ・リーンの下に集え! 破壊し! 滅ぼし! 駆逐し! 撲滅せよ! 神の理に背きし悪しき者どもに今こそ裁きの獄炎を! 獄炎殲滅尽フレア・デストロイア!」


 すでに時刻は夕刻。

 日も暮れかけた山に、バーンと鮮やかな獄炎が上がった!


 麓のクコ村からも、ハッキリと見えるほどの巨大な火柱であったと伝えられる。

 大爆発で軽く山の斜面がえぐれて、森が焦げるなどの被害があったが、山火事などが起きなかったのは魔法の炎のせいであったのだろうか。


「ちょっと! マヤやりすぎよ!」


 まずはうちから行く、どころの騒ぎではない。

 いつもはツッコミ役のマヤがいきなりブチギレたので、剣姫アナストレアもびっくりした。


 剣姫は、こんなに派手にやったら、自分たちがやったとバレてしまうじゃないかと言おうとしたのだが。


「ハァハァ……」

「マヤ?」


「フフッ、すまんなあ。ちょっとやりすぎてしもうたわ」


 燃えたぎる獄炎を背景に、魔法の杖を握りしめてどこか恍惚とした表情のマヤ。

 剣姫も、ちょっと引いた。


 さすがにSランクパーティー『高所に咲く薔薇乙女団』のリーダー。

 切れると、この子も怖いのだ。


「えっと、モンスターはまだ残ってないかしら?」


 ゴブリンたちが巣窟にしていた洞穴は、天井が吹き飛んでしまってもはや跡形も無い。

 普通のゴブリンなどバラバラに吹き飛んでいるか、そうでなくても消し炭になっている。


 複数体いたゴブリンロードたちも、すでに息絶えていた。

 そして、かつて大巣窟の玉座があったらしい残骸に、超巨体のゴブリン一匹だけが生き残っていた。


 ゴブリンロードを超える、Aクラスのモンスターゴブリンキングである。

 爆心地は深くえぐれて、山の地形すら変わっているこの状況で生きているだけマシだったのだが。


 黒焦げの死にかけになってしまうと、いかにも情けない。

 高い知性を持ち、本来ならば大鉈で武装してラメラーアーマーで身を固めたその姿は、偉大なる大巣窟のあるじであるゴブリンの王にふさわしき装いであったのだが。


 もはや、ズタボロで見る影もない。


「グッグウウウ……」

「よかった、まだ息があったわね。ちょっとケインの相手には大きすぎるから、手をちぎっておきましょうか」


 剣でザクッとゴブリンキングの腕を切り刻むアナストレア。


「ギャアアア!」

「ちょっと、アナ姫何しとるんや。そんなことしたら死んでまうやろ」


「なんで、こいつAランクモンスターで生命力は強いはずでしょ?」

「いや、さっきのうちの魔法でだいぶダメージ受けとるから」


 ピクピク痙攣していて、今にも死にそうだった。

 これはいけない。


「どうしよ。そうだ、セフィリア。回復魔法でなんとかならない?」

「やって、みる」


 セフィリアがゴブリンキングの回復を祈ると、ゴブリンキングが更に苦しみ始めた。


「グギェェエエゴギョオオオオ!」


 手をちぎられたとき以上の酷い苦しみ方である。

 ちなみに激痛にのたうち回っているゴブリンキングは、ゴブリン語でいっそ殺してくれと叫んでいる。


「主神オーディアよ。その神聖なるお力で、この者を回復させたまえ」

「ギョエエエ、ゲホッゴホッ! ゴボオォ!」


 すでに白目を剥いているゴブリンキングは、口からゴボゴボと血反吐を吐き出した。

 もうやめてあげればいいのに、言われた通りにゴブリンキングを回復させ続けるセフィリアもなんか怖い。


「あちゃー、モンスターに回復魔法って逆効果やったんやな」


 回復魔法は、邪悪なモンスターにダメージを与える。

 これが実は歴史上、初めての発見であった。


「あーもう、こんなことしてる場合じゃないのに、ケインがもう来ちゃうわよ!」

「もうあかん、タイムリミットや。ここは逃げるで」


 三人が慌てて巣窟を離れると同時に、入れ替わるようにケインがやってきた。

切りの良いところまで毎日更新でがんばります。

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