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おっさん冒険者ケインの善行  作者: 風来山
第二章「聖女セフィリア」

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16.『双頭の毒蛇団』の壊滅

 一方その頃、剣姫たち三人は、冒険者ファミリー『双頭の毒蛇団』の事務所の前まで来ていた。


「なんだぁ、テメェ、ここをどこだと」


 『双頭の毒蛇団』の事務所を守る門番は、最後までセリフを言えなかった。

 悲鳴を上げる間もなく、剣姫が小突いただけで壁にめり込む。


 その物音に気がついて、「なんだ!」と出てきたギルド員たちも、一瞬で壁にめり込む醜いオブジェと化した。

 それを五回繰り返すと静かになったので、剣姫アナストレアは奥に入る。


「ちょっと、邪魔するわね」


 事務所の奥のテーブルには、ボスであるスネークヘッドと、ファミリーの幹部たちが勢揃いしていた。

 ちょうど、カーズとジンクスがケイン暗殺をしくじった後始末の相談をしているところだった。


「なんだテメェら、グホッ!」

「おいおい、ここをどこだとグェ!」


 こいつらそんなワンパターンのセリフしか言えんのかいと後ろにいる魔女マヤにツッコまれつつ、前に立つ剣姫に近づいた途端に全員弾き飛ばされて、壁に頭から突っ込んでいる。

 この程度の相手、剣姫は剣を抜く必要すらないのだ。


 最後の幹部が頭からテーブルに叩きつけられ、テーブルごと床まで一気に破壊されてめり込んですら。

 スネークヘッドは静かに剣姫を見つめたまま、椅子に座って微動だにしない。


「スネークヘッド、ちょっとあんたに聞きたいことがあるんだけど」

「お嬢さんがた、人んちに乗り込んどいて挨拶もなしか」


 ローブのフードを目深にかぶっていても、声で女だと判断したのだろう。

 スネークヘッドは、そう言いながらゆっくりと立ち上がる。


「そんなのどうでもいいわ。私があんたに聞きたいことは一つだけ、あんたもケインを殺すつもりなの?」

「お前ら、あのケインとかいうDランクの戦士に雇われて、うちの事務所に乗り込んだのか」


 あの男、やはりとんだ厄介者だったかとスネークヘッドは自分の勘の正しさを確認した。

 惜しむらくは、部下に任せて自分が動かなかったということか。


 だが、今からでも遅くはない。


「だったら?」

「フッ……やることは変わらんな。この世界じゃな、一度舐められたらしまいなんだよ。俺の部下を潰したケインも、事務所に乗り込んだお前らも、両方殺るだけだ!」


 そう言った瞬間、腰に差している二本の刀を引き抜くと同時に斬りかかる。

 東方セリカン出身のスネークヘッドが使う武術は、居合イアイと呼ばれる抜刀術であった。


 それを、Aランクの二刀剣士ディマカエリであるスネークヘッドは、二刀でやる。

 まず一太刀を加えて、それでもダメなら二の太刀で止めを刺す。


 一撃必殺ならぬ、二撃必殺。

 刀と呼ばれる東方の美術品レベルにまで研ぎ澄まされた片刃の剣と、スネークヘッドの異常なまでの膂力りょりょくが可能にした豪剣であり、これを受けたものでこれまで立っていたものはいない。


「それで終わり?」

「なっ……」


 振り抜いたスネークヘッドの二刀は、粉々に砕け散っていた。

 スネークヘッドの鍛えぬかれた高速の抜刀術よりも、剣姫のアナストレアの神速の剣のほうが普通に早かったのだ。


 この段階まで、拳で戦っていた剣姫をスネークヘッドは拳闘士と勘違いしていた。

 まずそれが最初の誤り、そしてその女剣士が持つ剣を見て、スネークヘッドの顔は驚愕に歪む。


 そのロングソードの柄に刻まれているのは、王家の紋章。

 神剣不滅の刃デュランダーナ


 自慢の刀が粉々に砕けるはずだ。

 一流の剣士であるスネークヘッドは、それが世界に三本しかない神剣の一つだと知っていた。


 そして、それを持つ者は神速の剣姫アナストレア。

 後ろにいるローブ姿の女は、万能の魔女マヤと、純真の聖女セフィリア。


 つまり、攻めてきたのはSランクパーティー『高所に咲く薔薇乙女団』だった。

 この国で最も敵に回してはならない相手である。


 頭の回転が早いスネークヘッドは、ここまで思考するのに一秒もかかっていない。

 慎重な彼は、さらに刀身に毒を塗った隠し刀の三撃目も用意していたが、なまじ聡明なだけにSランクの剣姫に通用するわけがないとわかってしまった。


「ま、待て! いくらSランクパーティーだからって、事務所に勝手に押し入るとかそんな無法許されるわけねえじゃねえか!」

「ふーん、勝てないとわかったら、法律論でくるんだ。スネークヘッド、あんた聞いた所によると徴税請負人なんだって?」


「そ、それがどうした。これを見ろ! 俺はまっとうな税金の取り立てをやってただけだ!」


 スネークヘッドは、エルンの街の参事会から発行してもらった徴税請負人の委任状を見せつける。


「そういう請負なら、私もちょっとやってるのよね。ほら、国王から直々にもらった上級巡察官の委任状よ」


 剣姫アナストレアは、大貴族ですら独自に捜査できる権限を与えられた上級巡察官の委任状を見せる。


「そういうのならウチも持っとるで、王国裁判所からもらった治安判事の委任状や」


 つまり、上級巡察官のアナストレアと治安判事であるマヤが望めば。

 どんな相手であろうと捜査、逮捕して裁判にかけて刑の執行まで下すことができるということだ。


「さて、上級巡察官としてケイン殺害未遂容疑のならず者たちを逮捕、拘束したんだけど、マヤ治安判事、こいつらの量刑は?」

「有罪と認めて、直ちに斬首やな」


「ふざけるなァァ!」


 そう叫んで、最後の隠し刀で剣姫アナストレアに斬りかかったスネークヘッドの首が、一瞬でスパンと飛んだ。

 エルンの街の裏社会を牛耳っていた悪名高い『双頭の毒蛇団』は、一晩にして壊滅したのだった。

切りの良いところまで毎日更新でがんばります。

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[一言] 悪人にたいして躊躇いが無いよね、素晴らしい 面白いです、もっとやれ!でも恋愛に関しては初心者マーク
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