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おっさん冒険者ケインの善行  作者: 風来山
第四章「帰還」

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109.エルフの国を救った英雄

 正気に戻ったエルフの族長アーヴィンは、冥王アバドーンに操られてエルフの国を危機に晒した責任をとって、自ら牢獄へと入った。

 獄の中でエルフの国のために仕事は続けながら、これから百年かけて反省の日々を送るそうだ。


 モンジュラ将軍と一緒に攻めてきた兵士たちは、全員そのまま捕らえられてまた北守砦に送られた。

 彼らはもともと行き場を失ったモンジュラ派で、自分たちは将軍にそそのかされただけだと言っているが、一人ひとり詮議して、相応の罰が与えられることとなるだろう。


 エルフの女王ローリエは、ケインにアーヴィンの謝罪を伝える。


「会わせる顔がないが、ケイン様にはすまなかった……だそうです」

「そうか、会えないのは残念だな。彼はやり方を間違ってしまっただけで、エルフの国のことを一番考えている人だと思うんだけどね」


 アーヴィンは優秀な統治者であった。

 彼が表舞台に立てなくなり、エルフの国もこれからが正念場だろう。


 森の都の広場でやり直された表彰式で、ケインは新しく青の精霊石を贈られた。

 エルフの国の危機を何度も救った功績により、ついに人族でありながらハイエルフの一員であることを認められたのだ。


 冥王の魔の手からエルフの国を救い、エルフの代表者であったアーヴィンの心まで救ってみせたケインに、偏屈であったエルフたちも惜しみない拍手を送る。

 これからは閉鎖的だったエルフの国も、人族の国やドワーフの国とも、前より良い関係が築けるに違いない。


 それなのに剣姫アナストレアが、とんでもないことを口走った。


「こんな表彰式をやるなら、ケインの国にちょっとぐらい領土をよこしなさいよ」

「アナ姫、そんなこと言ったらあかんって!」


 せっかくケインの活躍のおかげで、エルフとも友好ムードができてるのに、ぶち壊すつもりか。

 領土問題は、どこの国も敏感なのだ。


 そんなホイホイ切り分けできるようなものではない。


「あら、いいですよ」


 しかし、意外にもローリエが笑って快諾する。


「ええ!? ほんとに?」


 アナ姫も紅い瞳を丸くして驚いている。

 わかりにくいが、どうやらアナ姫もさすがに冗談のつもりだったらしい。


「ちょっとと言わず、丸ごともらえばいいじゃないですか。ケイン様は、ハイエルフとして認められたんですから。女王である私と結婚すれば、そのままエルフの国の王様にもなれますよ」

「うう……」


 アナ姫がしてやられたって顔をしている。

 フフンと、ローリエは笑う。


「ちょうどみんな集まってますし、ケイン様さえよければ、このまま結婚式にしていいんですよー」


 そう言って、ローリエがアナ姫に見せつけるようにケインの腕を掴んで、ふくよかな胸に押し付ける。


「ダメ! そんなの絶対ダメよ!」


 アナ姫が慌ててローリエとケインの間に割って入って、二人を引き剥がした。


「ハハ、冗談だよね」


 ローリエさんは人をからかうのが好きだなあと、ケインは朗らかに笑う。

 みんなも、なんだ冗談かとホッとして笑いだした。


 しかし、みんなに笑われた当のローリエは、キョトンとした顔をしている。


「あの、これは冗談じゃないですよ! だって国を救った英雄と女王が結婚するって、ハッピーエンドとしては全然ありな展開じゃ――」


 いつの間にか、ローリエの後ろに立っていたシスターシルヴィアが、妹の口を手で塞いだ。


「そこまでにしておきましょうね。ローリエ、あなたちょっとふざけすぎよ」

「――ンググ、ンググググッ、ングググッ!」


 お姉様、息が苦しいっ、離してっ!と ローリエは手足をバタバタさせて暴れるのだが、シルヴィアは手を外さない。

 シルヴィアの本気・・を感じ取ったのか、ローリエは急におとなしくなった。


 ぐったりしたローリエをそのまま押さえつけながら、シルヴィアはケインに言う。


「それはそうとケイン。後で、私と一緒に聖地に来てちょうだいね」

「いいですけど、なにか御用でしたか」


「私たちがエルンの街に帰る前に、精霊神ルルド様もケインに直接会ってお礼がしたいそうよ」


 まさかの精霊神ルルド様のお誘い。

 ケインはやや緊張した面持ちで、シルヴィアに連れられて、聖地へと赴くのだった。

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