表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
blue sky  作者: みゅう
5.梅に鶯(うぐいす)、松に鶴
19/24

5―3 友達

「あ、彼氏君だ」

 移動教室のため、廊下を歩いていると、突然、美幸がそう声を挙げる。

 美幸(みゆき)の視線の先には、確かに一人で歩く誠の姿があった。飲み物を買いに来たらしく、その手にはペットボトルが握られている。

 あちらは一階の中庭、こちらは三階の廊下と、高さが全然違うので、向こうが私達の存在に気付く様子はない。

「あ、女の子から声掛けられた」

 立ち止まり、窓の外を見る私達の目の前で、誠が見知らぬ女子から声を掛けられる。

 誠の方はそうでもないが、女の子の方は何だか親しげというか楽しげだ。

鳴瀬(なるせ)君、モテるからね」

「……」

 誠はモテる。それは事実だ。

 ルックスは特別いいわけではないが、他人のために親身になって骨を折るその姿勢は、実際に助けられた人だけではなく、全く関係のない人にも好印象を与えている。

「最近じゃ、先生とも噂になってるしね」

「誰!?」

 聞き捨てならない言葉に、思わず私は、美幸の顔を見る。

「楓もよく知ってる人」

「あー……」

 お姉ちゃんか。

 噂になっている人物の正体を知り、安堵する一方で、また別の不安が生まれる。

 お姉ちゃんと誠は、私の知らない所で結構会っているらしい。もちろん、学校の中であり、たまたま顔を合わせて話す程度ではあるのだが、何しろお姉ちゃんはあの容姿だ、彼女としては気が気でない。

 誠と女子が別れたのを見て、私達も移動を再開する。

「大丈夫。楓は可愛い」

「ありがとう」

 まるで、私の内心を読んだようなこーちんの言葉に、私は笑顔で(こた)える。

 出会った当初は、こーちんの事をよく知らず、こういった言動にいちいち驚かされていたが、今ではすっかり彼女の調子にも慣れ、普通に反応出来るようになった。

「ま、そりゃ可愛いわよね。何せ楓は、恋する乙女、なんだから」

「はいはい。その通りですよ」

 そして、美幸のからかいにも、今ではもうすっかり慣れ、それなりの対応、あしらいを出来るようになった。

「そういう美幸はどうなのよ。気になる相手とかいないの?」

「私? そんなのいるわけないじゃない。何たって、私は――」

「バスケが恋人、でしょ?」

 知り合ってから何度もなく聞かされたその言葉を、私は美幸より先に口にする。

 彼女のそのバスケに対する熱さは、私にとって眩しくもあり、懐かしくもあり、羨ましくもあった。だからといって、今バスケ部に入りたいかと聞かれれば、答えはNOだが。

「こーちんは……」

「?」

 私の視線を受け、こーちんが小首を傾げる。

 こーちんに気になる人がいるなんて話は聞いた事はないし、彼女のこの様子ではそんなものがいるとは到底思えない。むしろ、いたら驚きだ。

「ダメよ、(こころ)は。花より団子。男より食い気なんだから」

 美幸にそう言われ、なぜかこーちんが小さくVサインを体の下の方で作る。

 得意げ? でも、なんで?

 本当にこーちんの言動には、謎な部分が多い。

「そういえば今度、駅前のクレープ屋さんに新メニューが加わるって」

 食い気という言葉により記憶が刺激されたのか、ふいにこーちんがそんな事を口にする。

「またクレープ? 私、少し甘い物控えたいんだけど」

「美幸は動いてるから大丈夫。太らない」

「そういう問題じゃ……」

 二人の会話を聞きながら、私は何だか微笑ましい気持ちになる。

 誠と一緒にいる時間は確かに大事だが、二人と過ごす時間も同じくらい大切だ。それは多分、比べていいものではきっとない。

「何笑ってるのよ。当然アンタも道連れだからね」

「死ねばもろとも」

「死んでどうするのよ……」

 こーちんの的外れな発言に、美幸が眉を(ひそ)める。

 ホント、この二人と一緒にいると、退屈しないし、何より楽しい。

「うん。行こっ。クレープ屋さん」

 だから私は、喜んでその誘いに乗っかる。

「いいけど、私の予定に合わせなさいよね」

「もちろん。美幸は部活で大変。だから、我がままを言う権利がある」

「我がままって……」

 こうして、私の休日の予定が一つ決定した。

 土曜日のお昼に、駅前をぶらつく。美幸とこーちんと三人で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=902039073&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ