6/8
始まりの詠唱師
その世界には魔物がいました。
ですが、神々は人間に魔法を与えませんでした。
魔物は強いかもしれないが、魔法を使わないからです。魔物が火に包まれていたり、火を吐いたりはしても、それは魔法ではなく、そういう身体の仕組みなのです。
人間でも魔物は討伐できるのだから、と神々は魔法を与えませんでした。
大多数の人間は畑を耕し、自然の恵みを採取して暮らしていました。
魔物を狩る者は生きるか死ぬかの戦いに身を投じていましたが、魔物の犠牲者は甚大でした。
魔物を討伐できる人間が少なかろうと、神々は忖度しなかった結果です。
ある時、一人の娘が神々に祈りを込めた歌を捧げました。
命すら込めたその歌は神々の下に届き、人間は魔法を手に入れました。
祈りに為に命を捧げた娘は、人間でいることを選んで死にました。
神々の与えた魔法は、娘のように歌に命を込められる者だけが使用できました。
歌を捧げた娘は始まりの詠唱師――聖女と呼ばれました。




