間奏4-2・我らが女王陛下の幸せのために(エルマ視点)
今日は2話同時に更新しております。
こちらは2話目です。最新から読まれる方はご注意ください。
「……皆さん、本当にすごすぎて……」
エルマが自嘲と共に漏らしたつぶやきだけで、ロッテはエルマの複雑な葛藤を察してくれたようだった。
「わかるわ。私もしょっちゅう思うもの。私はガートルード様のお役に立てているのかしら、って」
「えっ……、ロッテさんも?」
ロッテは皇妃の宮殿の管理から運営、外部との交渉まで、ほぼすべてを一人で担っている。颯爽と働く姿に、座学が苦手なエルマはいつも感動していたし、本人もやりがいを抱いていると思っていたのに。
「重要な役割を任せて頂けるのはもちろん光栄だし、ありがたいわ。でもね、エルマ。私はガートルード様の『侍女』なのよ」
「あ……」
苦笑され、エルマはやっとロッテの胸の内を理解した。
侍女の職掌は貴婦人のそばにはべり、話し相手を務める他、宝飾品やドレスの管理、身だしなみ、円滑な対人関係の維持など、多岐にわたる。
並大抵の女性に務まる職ではなく、侍女もまたある程度以上の貴族令嬢なのが普通だ。一国の妃の侍女ともなれば、公爵や侯爵の令嬢が侍女を務めるのが普通である。亡き皇后コンスタンツェに姪の伯爵令嬢ニーナしか侍女がいなかったのは、本来ならありえない事態だったのだ。
それを言うならシルヴァーナ王女にして帝国皇妃だったガートルードに子爵令嬢のロッテしか侍女がいないのは、コンスタンツェを上回る非常事態である。
しかし、まったく問題にはなっていなかった。ガートルードにはレシェフモートが――女神が遣わした神使がはべっていたからだ。
本来なら侍女が行うべき世話を、レシェフモートは完璧にこなしていた。そして自分以外の誰かがガートルードに触れることすら許さなかった。
『触れるな』
そう、直接警告されたわけではない。そもそもレシェフモートの瞳には、ガートルード以外の人間など映らない。
ただ、本能が理解していた。レシェフモートはガートルードに関わるすべての世話を己の手で焼きたがっている。その邪魔をすれば、容赦なく排除されると。
エルマとロッテに、果たすべき務めはない。なのにガートルードのそばにいることを許されているのは、ガートルードが望んでいるから。それだけだ。
今回の女王親征にも、二人は加わることを許された。それもやはり、ガートルードが望んだからだ。エルマが実際に身を盾にしてガートルードを守ることも、ロッテが侍女の役割を果たすことはないだろう。レシェフモートと、同じくらい得体の知れないカイレンがいる限り。
万が一二人の手に負えない事態が起きても、ジークフリートとヴォルフラムがいる。リュディガーは皇帝代理として帝国に残らざるを得ないが、ガートルードの親征が滞らぬよう万全を尽くすだろう。
「……私たちが殿下のためにできることなんて、ないんですよね」
痛々しいほど細い肩に背負った重荷を、少しでも軽くして差し上げたい。その気持ちに嘘はないのに、実際のエルマはむしろガートルードに守られている。主君を守るべき騎士が、主君に守られるなんて……。
「いいえ。そんなことはないわ」
思いがけない返事に、エルマははっと顔を上げた。目が合うと、にこりと微笑まれる。
「エルマ、この間ガートルード様がご覧になっていた『アヴァ・レンボー将軍』を再現してくれる? クライマックスのシーンだけでいいから」
「あ、はい」
せがまれるがまま、エルマは水魔法で人形を造り出した。古風な装いの異国の武人――アヴァ・レンボー将軍と、凶悪な人相のごろつき数人だ。
数にものを言わせて襲いかかるごろつきたちを、アヴァ・レンボー将軍は華麗に斬り伏せていく。アヴァ・レンボー将軍のストーリーは基本的に一話完結だが、どの話も最後は将軍が一人あるいは少数の部下と共に敵軍に立ち向かうことになる。剣豪でもある将軍が悪者たちをばったばったと倒していく姿は爽快だ。
「このシーンをご覧になるガートルード様は、楽しそうに笑っていらしたわね」
「……はい」
エルマも覚えている。ピンチに陥った将軍を握り拳で応援し、『成敗!』の決め台詞で快哉を叫んだガートルードを。
「エルマはそれでいいのだと思うの。だって『アヴァ・レンボー将軍』でガートルード様を楽しませて差し上げられるのは、貴方だけなのよ?」
「……私、だけ……」
「護衛騎士だから剣で貢献しなければならない、なんてことはないはずだわ。女王になられても、ガートルード様はまだ幼い少女であられるのだもの。歳の近い同性がそばにいれば、心強く思われるでしょう」
ぱちぱちと、エルマは目をしばたたいた。
確かにそうだ。レシェフモートを筆頭に、ガートルードの守護者たちは男ばかり。ガートルードとて同性にしかできない話もあるだろう。そういう時、そっと心を支えてあげるのもまた主君への貢献のはずだ。
「すごいです、ロッテさん……私、目が覚めたような気持ちになりました……」
「すごいのは私じゃなくて、貴方よ。私だって、アヴァ・レンボー将軍を楽しまれるガートルード様を見て気づいたんだもの。騎士とか侍女とか、肩書きに縛られる必要はないんだって。……だから、私も私にしかできないことで貢献しようと思うの」
「……それは?」
どこか艶めいた表情にどきどきしながら問えば、ロッテはふふっと笑った。
「元婚約者のおかげで、色々と見る目を養われたもの。ガートルード様がお相手を選ばれる時には、有益な助言を差し上げられると思うわ」
「お、お相手!? でも殿下はまだ……」
「ええ、まだ六歳であられるけれど、女王陛下になられるのだもの。婚姻はまだ先でも、婚約の話はすぐにでもあちこちから持ち込まれるはずだわ」
ロッテの言う通り、ではある。シルヴァーナの女王は即位と同時に王配と婚儀を挙げるのがならわしだと聞いた。君主の最たる役目は後継者を残すことだ。それはガートルードとて例外ではなく、形だけでも整えなければならない。
(でも、でも)
「お相手って……いったいどなたが?」
生半可な相手では、レシェフモートも他の守護者たちも許さないだろう。だいぶ年齢は離れているが、守護者たち自身が女王の婿がねとしては最高の男たちなのだ。
「それはガートルード様のお心次第、だけど……」
「『だけど』?」
「この親征の間、見極めさせてもらうわ。ガートルード様を一番幸せにしてくださるお方を」
「ロッテさん……」
エルマはぐっとロッテの手を握った。
「及ばずながら私もお手伝いします。殿下は世界で一番幸せにならなくちゃいけないお方なんですから」
「エルマ……ありがとう。心強いわ」
二人は微笑み合い、どちらからともなくカップを掲げた。かちん、と互いのカップを軽くぶつける。
「女王陛下の幸せのために」
飲み干した蜂蜜カモミールティーはすっかり冷めていたけれど、エルマとロッテの心をぽかぽかと暖めてくれた。
これにて3章は本編・番外編含め完結となりました。更新にお付き合いくださった皆様、ありがとうございました!
そして本日、とうとう『転生ものぐさ王女よ、食っちゃ寝ライフを目指せ!』第2巻の発売日です。
主におみ足関連で3万字ほど加筆し、番外編も書き下ろし、WEB版既読の方でも楽しんで頂ける内容になっております。次の巻につなげるためにも、ご購入頂けると嬉しいです!




