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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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部屋に差す青白い光を感じで、ブロンシュは目を覚ました。

それが夢ではなく、カーテンから漏れる月明かりだと気がついた時、ブロンシュは心の底から安堵した。


胸から込み上げる重く針がさすような痛みと、焼けるような苦しさは、今はもう感じられない。

思い返せば最近、体の異変は感じていたが、まさかあれほどまでに死を身近に感じることになるとは考えていなかった。

あれは…ティヨールの陛下を最後に見た時と、同じ症状だったように思う。


ふと、見たことのない寝具の模様が目に入る。

そういえば、ここはどこなのだろう。

辺りを見回し隣を見ると、人の気配がする。


「…っ、無礼者!だれ…か…?」


王女であるブロンシュと同じベッドに横たわり、静かに寝息を立てている人物に目を見張る。


「(この娘は…『聖女のなりそこない』?)」


重く思考が回らない頭を、どうにか動かして記憶を探る。

泥の中に沈むような感覚の中で、必死に声を掛けていたのはこの娘ではなかっただろうか?

白い夢のような空間の中で、母親の愛情のように、優しく腕で包み込みその胸に抱きしめてくれたのは…まさか。


ブロンシュはそっと、シュロールを覗き込んだ。

疲れているのかその眠りは深く、目を覚ましそうにない。

少し考えて記憶を手繰る様に、ブロンシュは眠っているシュロールの肩から胸へかけて頭を乗せてみる。

手を添え、静かに目を閉じる。


ああ、この感覚だ…暖かく心地よい鼓動と共に、包み込むような魔力を感じる。

ブロンシュは自分を助けてくれた者が、誰かを知ることができた。

それにしても…女性としての柔らかさが足りない、あまり大きくはないその膨らみに溜息をこぼす。

頭の乗せ心地の悪さに、シュロールの胸をふにふにと触ってみる。


「…ん、んん?ふにゃっ!…な、なにを!」


シュロールは飛び起き、後ずさりながら、同時に自身を護るように抱きしめる。

顔を赤くし、触っていたブロンシュを見上げると、ブロンシュはつまらない者を見るような視線を投げかける。


「騒ぐのはよしてちょうだい…たいした物でもないでしょう?」


過剰な反応だと言わんばかりの口調で、大きくため息をつく。

シュロールは行動の流れが理解できていないまま、涙目で口を戦慄かせていた。

言葉の意味を考えつつ、シュロールはブロンシュの首より下へ視線を向ける。


「(…ぐっ、たしかに。)」


そこには溢れんばかりの、女性として柔らかく豊かな膨らみがあった。

シュロールは眉を下げ、眉間に皺を作りつつもそもそとベッドの中央へ戻ってきた。


「…お加減は、悪くありませんか?」


「ええ…おかげ様で。私は何故、ここで貴方と一緒に寝ているのかしら?」


「覚えてらっしゃらないのですか?」


「曖昧だけれども、記憶はあるわ。多分、貴女に助けられたということも…。しかし何故、一緒に寝ているかということよ?」


「…申し訳ございません、ここへは最低限の人数しか置いておりません。しかも事情を知る者以外にはブロンシュ様のことを内密にしているため、ブロンシュ様の意識が戻るまではこうせざるを得なかったのです。」


「そう…。助かりました、礼を言います。」


「いえ…お役に立ててなによりでございます…。」


シュロールの方はブロンシュに向かって話しているのだが、ブロンシュは上半身を起こしたままじっと遠くを見つめている。

本当はブロンシュの無事を見届たくて、一晩一緒にいるつもりだったが…やはり高貴な方には無理があったのだろう。


「えっと…メイドを呼んでまいりますね?」


きっと出入り口にはヴィンセントが護衛として立っているはずだ、ミヨンを呼んできてもらおうとベッドから足を降ろした。


「…けっこうよ。まだ夜も深いのでしょう?朝までこのままでかまわないわ。」


寝衣の裾を直しながら、ブロンシュは再びベッドの中へ戻っていった。


このままで良いと言われたシュロールは、自身をどうしたらよいのか戸惑っていた。

ひとつ先の部屋には、ソファがある。

やはりここは、シュロールが移動するべきなのだろう。

エンジュにもらった体を暖かさで包む魔石と、大き目のストールでどうにかなるだろうかと考えていると、ブロンシュから声がかかる。


「何をぐずぐずしているの、早く入りなさい。そうされていると眠れないわ。」


お叱りを受けてしまった…仕方なくシュロールもベッドの中へ入る。

ブロンシュの様子が気になる為、少し角度をつけて様子を伺う。

ブロンシュはもう、眠りにつこうとしていた。

その様子に安心し、ほっと息を吐くとシュロールも眠ろうと大きく息を吸い込む。


ふと、ブロンシュの方から布の擦れる音が聞こえる。

ブロンシュはあまり目立たないように、枕を握りしめていた。

先程までの冷静さからは想像できなかったが、その仕草にブロンシュの感情がでているような気がして、シュロールは声をかける。


「…ブロンシュ様。ブロンシュ様は、怖かったのですか?」


ブロンシュの肩がびくりと跳ねると、くぐもった声で返事が返ってくる。


「当たり前でしょう?いくら私でも、そんなに図太くはいられないわ。」


心外だという感情…いや、泣き出しそうなのかもしれない。

黒い靄が自分を覆っていき、死ぬかもしれないという苦しさを味わったのだ。

シュロールはそっと手を伸ばし、枕を握っているブロンシュの手に手を重ねた。


「…大丈夫です、私が何度でも、ブロンシュ様をお救いします。」


優しく…ブロンシュの恐怖を取り除ければと、心を込めてシュロールは言った。

返答のないまま、静寂がその場を包む。


ブロンシュの手が動く、一瞬シュロールの手が払われたかのように見えた。

しかしそれはシュロールの思っていたものとは違い、手の向きを変え今度はブロンシュの方からシュロールの手を包むように握る。


「そう…では、貴女に任せましょう。しっかり励みなさい。」


ブロンシュの肩の力が抜けるのがわかる。

二人はそうやって朝まで手を繋いだまま、眠りについた。

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