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いつもご意見・感想ありがとうございます。
今回私の無知や傲慢のせいで、皆様には多大なご迷惑をおかけしたことを、まずはお詫びさせてください。
私の中では一番良いと思った決断であったのですが、多角的に様々な意見を拝見させていただき、それが浅慮であったことを知りました。
本当に、本当に申し訳ありませんでした。
決断した時に、暖かい言葉と助言をくれる人がいました。
また感想で、励ましてくれる方、お疲れ様と言ってくれる方がいました。
更には、私の作品の主人公を「シュロ」と呼んでくれる方がいました。
大変ありがたく、心に刺さる言葉でした。
まだまだ、作品が未熟であると、心の在り方がだめだと、おっしゃる方もいらっしゃいますが…それでも、続きを読みたいと思ってくれている方へむけて…最後まで投稿していこうと思います。
「こいつはダメだな」「読む気がうせる」等、思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、よかったらお付き合いください。
そして、申し訳ありませんが感想とレビューを閉じさせていただきます。
たくさん励ましをいただいた場ではありますが、またいつか余裕ができた時に再びお会いすることができればと思います。
あと、本日から一日一話のペースで投稿を再開しようと思っておりますが…今日明日の部分は書き方が変わっておりません。(以前書いたものなので、申し訳ありません)
そしてそのあとの「閑話」から、少し会話の部分を意識して書いております。
ただ…それでも、皆様にご理解いただける書き方ではないかもしれませんが、ご了承の上、一読いただければと思います。
この度は色々とご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。
最終話まで、今少し温かい目でお付き合いいただけると嬉しいです。
クロエが去っていった居間には、静けさと、重苦しさが漂っていた。
その場にいた誰もが、この先の展開を予想できず、言葉を発することを躊躇しているようだった。
最初にそれを破ったのは…やはりというべきなのか、宰相という重責を担っているプラタナス公爵だった。
「それでは、エンジュ殿は王都との交わりを、いかにお考えなのか…。」
さらに歯を食いしばり、話を続ける。
「シュロール嬢がフェイジョアへ赴いた後の、辺境はどのような…。」
「なにも考えてはおらんよ…。」
不機嫌なエンジュではあったが、トゲのない落ち着いた声で答えた。
「家族…なんだよ、わかるか?取り返して何が悪い?」
「手放したのはそちらだろう?ならば私は堂々と奪いに行く…それだけだよ。」
普段からは想像もできないエンジュの哀愁、思慕…プラタナス公爵はこれ以上言葉を発することはできなかった。
例え王や、その臣下達が不利な状況になろうとも。
◇◆◇
プラタナス公爵は、思い出していた。
二十年近く前に『辺境の雷鳴』と歴史書に記された、災害の事を。
その歴史書に記されている内容は、辺境に数週間に渡る雷鳴が鳴り響き、町は焼け、死者が多数出た事が書かれていた。
災害に対処していた、当時のフェイジョア辺境伯夫妻が、この災害で亡くなっている事。
その家族もまた、大きな傷を受け壊滅的な状態になった事。
そしてその被害は王家の支援によって救われ、辺境の令嬢が王へ敬意をはらい友好を深めるため、王都高位貴族へ嫁いできた事などが書かれている。
しかし…王宮に保管されている歴史書に書かれたことは、真実ではない。
実際には隣国との戦争が始まり、辺境伯の力により国境で踏みとどまっていたのだ。
王宮に何度も救援要請の書簡が届いたが、高位貴族達の間での辺境伯の発言力に嫉妬した王家に握り潰された。
なんとか水際で食い止め、停戦にまで持ち込めたが…フェイジョアの一族は、ほぼ全員が亡くなり残ったエンジュもまた大きな傷に倒れていた。
そして壊滅的に破壊された都市の復興援助の対価として、オルタンシアの婚姻が要求された。
反乱を起こされることに対する人質で、間違いなかった。
オルタンシアはその要求を、傷で臥せっているエンジュに内密に受けた。
これ以上フェイジョアの民を傷つけないように、癒せるようにと…。
すべての出来事が終わってしまった後に、意識を取り戻したエンジュはそのことを知り王宮へ乗り込んできたという。
家族をすべて奪われた、女騎士の咆哮…それがその災害の名前『フェイジョアの雷鳴』であった。
王宮騎士の応戦により、また意識を失ったエンジュはオルタンシアのとりなしの元、血の涙を流しながらフェイジョアの地に戻っていった。
それ以来…王都における高級貴族はエンジュに敬意をはらい接する。
虐げられた英雄への敬意を。
◇◆◇
「そう…ですか…。」
昔からの因縁に、プラタナス公爵はそう言葉にすることが精いっぱいだった。
唯一の血縁…シュロール嬢の受けた仕打ちに対して、エンジュが怒りを抑えるいわれはない。
だがこれを堪え、家族を取り戻すことを最優先とし、今も体の内の炎をくすぶらせている。
「では!」
何を思ったか、この空気を引き裂くような、雰囲気にそぐわない声が聞こえてきた。
「私とシュロール嬢の婚姻はどうでしょうか?」
名案を提案しているとばかりに、ハルディンは意気揚々と声をあげた。
今しかない、辺境へ戻ってからでは手を打ちようがない、ハルディンなりの計略であった。
「はっ…ははは…ふぁ…ははははははははははははっ」
俯き、大声を出し笑う。
それは泣いてるとも、嗚咽ともとれる声だった。
髪の毛をかき上げ、のけぞり笑うエンジュの表情は見る者を焦燥させる。
眉毛を下げ、目を見開き、瞳の焦点は合わず、息も絶え絶えに笑い続ける。
息を吐き、落ち着きを取り戻すと、その居住まいを正す。
「いや、悪かった。…シュロール、大人に囲まれ疲れただろう。部屋で少し休んできなさい。」
シュロールの手をとり、共に立ち上がる。
送り出すように、エンジュが優しくエスコートをして扉まで促した。
見送る扉が閉まってもなお、その先に視線を置いたままエンジュは立ち尽くしていた。
「さて…。」
振り向いたエンジュに、表情はなかった。
一瞬にして、空気の層が厚くなる。
周りの者が息苦しさを感じる間もなく、エンジュの肩に掛けられていた紺色のストールが浮かび上がる。
風が、走る――――――――。
「うっ、わっ…うぐっ」
ハルディンが前かがみに俯く。
今まで履いていたはずの、スボンと下着は落とされ大事な部分のすぐ上に、一文字の傷を負わされていた。
あわてて下着を引き上げるが、傷より出てくる血が滲む。
「なぁ…はあ、はあ、…な、なぜっ?」
プラタナス公爵も、シネンシス公爵も動けないまま顔を青くし、ハルディンのその様子を見つめている。
エンジュは右手を顔の位置まで上げて、握ったり開いたりしている。
「最近のお気に入りでね…指装甲というらしいんだが、私の物は特別仕様でね。」
更に人差し指と中指を差し出し、そこについている甲冑のように指を覆っているものを前に出す。
華奢な指輪の延長のようなデザインのそれが、鈍い輝きを放つ。
「先を刃状に加工してある。」
ギシリともガシャリともいう音を、立てながらそれらを伸ばしたり曲げたりしている。
「あな…貴方は自分が何をしているのか、わかっているのかっ!」
ハルディンは焦りスボンを掻き抱きながら、腹部を抑え声を荒げた。
「黙れ。」
先程の狂気を抑え切ったエンジュは、表情もなくハルディンに告げる。
「私が昨夜のことを何も知らないと思っているのなら、見当違いもいいところだ。」
ハルディンは…先程の取り乱した様相から一転、動かなくなった。
プラタナス公爵は驚き、信じられないとばかりにハルディンを睨みつける。
動かなくなったハルディンを見て、興味を失ったとばかりに顔を背けるエンジュは続けて告げる。
「躾のなってない大型犬は、綺麗に切り取られるよりも、もぎり取られる方が良いらしい。」
片眉をあげ、口元だけで笑う…表情が乏しい皮肉屋のエンジュに戻っていた。




