23:勇者と聖剣 其の三 ☆
こんにちは、真歩です。
私、聖剣を手に入れました。
「嘘じゃっ! これは何かの間違いなのじゃっ!」
とはいっても当の本人は全く認めておりません。
「往生際が悪い」
「ええい、こうなったら、こうじゃっ!」
わらわちゃんの体から凄まじい光が放たれる。
「う、眩しい」
「どうじゃ! わらわの威嚇っ! これをまともに受ければ人間など放尿して体中ガクガクじゃっ!」
「あぁ、眩しかった」
「なぬっ! 貴様、何故わらわの威嚇が効かぬっ!?」
ん、わらわちゃん何かしたのかな。
多分だけど、スキルの中の精神異常耐性が効いたのかも。
あ、ならこのスキルが有効かも。
「ねぇ、わらわちゃん・・・・・・」
スキル洗脳発動。
改めて私、聖剣を手に入れました。
「よろしくね、わらわちゃん」
「ほむ、よろしく頼むのじゃっ」
すっかり素直になった。
洗脳スキルやばいね。
「それで真歩よ、わらわはどの形態でいればよいかの?」
「形態?」
「ほむ、今こうしているのが人型形態なのじゃ、その他に、剣がバラバラになって空中に留まる破片待機形態。そして・・・・・・」
白いわらわちゃんの体が色を宿す。
色は形を変え。
巨大な剣になった。
「これが大剣形態なのじゃ。人型の状態で出す刃よりかなり大きくなっておる」
確かに戦闘中に私へと突っこんできた時より倍くらいあるね。
柄を握ってみる。
普通なら持ち上げることも無理そう。
でも私の力が異常なのか、それともわらわちゃんが私を認めてくれたからなのか、いづれにせよ、とても軽い。
特になにも考えず海に向かって刀身を振るう。
海の水が。
中央以外の。
空を隠す。
見えるのは海の底。
「うわぁ」
やった私が一番驚いた。
「ほむ、真歩の純粋な力とわらわの力が合わさってとんでもない攻撃力になっておるな。流石わらわが認めた所持者じゃ」
確かに凄い威力。
でも、これはいくらなんでも過剰だね。
「う~ん、わらわちゃんは人型形態のままでいいかなぁ」
こっちの方がまだ目立たなそう。
私の横に浮かんだ人間離れした雰囲気を醸す少女。
これだけでも充分人の目は引くけど。
とりあえず用は済んだし村に戻ろう。
最近飛べるようになったからひとっ飛びだね。
「うわあああ、聖剣だぁああああああ」
案の定村人達は困惑した。
よく聖剣だと分かったものだ。
「おぉ、お帰りなさいませ、勇者さまっ! 丁度いいところにっ!」
村長が慌てて駆け寄ってきた。
「ただいまです。そんなに慌ててどうかされました?」
よく見たら周りの村人達が武器を手にしていた。
「それが南の砦に大陸から逃げてきた魔族達が住み着いていたのですが、その魔族達が王国目指して進軍を開始したらしいのですっ!」
「えぇ、魔族なんて住み着いていたんですか」
「はい、距離的にはかなり離れていましたし、今まで特に動きもなかったのでそこまで危惧してなかったのですが・・・・・・」
「なんで大人しくしてたのに急に動き出したんだろ」
「理由は分かりませんが、ここは王国までの通り道、必ず魔族達が攻めてきますっ!」
「う~む、それは困りましたね」
「真歩よ、なにをそんなに悩んでおる。お主とわらわがいれば魔族なぞ敵ではなかろうが」
「そりゃそうだろうけど、魔族だからって何でもかんでもやっつければいいって訳じゃないと思うの。人間でも魔族でも聖獣でも色々な人がいる。少なくとも私が出会ったみんなはいい人ばかりだった。できればみんなと仲良くなりたい」
「・・・・・・この世の中そんな単純ではないぞ、色々な者達がいる、その分一人一人考えも違うのじゃ。例えこちらが心を開こうが相容れぬ者は必ずおる」
「それでもまずは話をしてみたい」
「・・・・・・ほむ、よかろう。ならば試してみるのじゃ。お主にはそれを試すだけの力は持ち合わせておる。力がなければ押し通すこともできぬからの」
「うん、じゃあ行ってみようっ!」
私がそう宣言すると。
「うぉおおおおおおおおおお、勇者さまが立ち上がったぞぉおおお、これでこの村も安泰だぁあああああ」
「やったぁああああああ」「助かったぞぉおおおおおおお」「今夜は宴じゃあぁあああ」
声を上げ。
村人全員が武器を放り捨てた。
この絶対的信頼感。
この圧倒的丸投げ感。
まぁいいけど、とりあえず行ってみようと思います。
いざ、進軍してくる魔族の元へ。




