その7
「魔物の数、少ないなあ。みんなの討伐点数はどれくらい? 俺は80点」
キャルルはモンスターを見かける度に積極的に討伐して、合計10体ほど倒していたがこの点数。
「俺は16点」
胸元に付けたカードを確認しながらアスラウが報告した。
「0点だにゃ」
「0点だし」
バスティとリリカは、当然戦闘には加わらない。
「あれ? きついなこれ。賞品まで届くかなあ……」
キャルルが腕を組んで考える。
賞品が貰える最低ラインは1000点だった。
しかも1000点では記念のペナントしか貰えない。
まともに稼ぐならば、最低でも五千点以上が必要である……。
「うーん、よし! もっと奥へ行こう!」
キャルルの決断は早い。
実はこの少年、これまで実戦で苦戦した記憶がほとんどなかった。
何故なら、過保護な保護者が何時も二、三人は付いていたから。
「お、おい待てキャルル、進んでも大丈夫か? ここの運営、ちょっと怪しいぞ」
「へーきへーき。俺達なら何とでもなるよ」
アスラウの慎重論を、キャルルは一蹴した。
「うちをあてにするんじゃないにゃ……」
バスティも遅れずに付いていきながら、猫の髭だけをほっぺに生やした。
「なにそれバスちー、お髭ちょーカワイイ」
「これで気配を感じ取る……にゃ!」
しばらく後、リリカの発案でライデンの女子に動物系付け髭が流行る。
男子からは評判が悪かったが、この付け髭は獣人系種族への蔑視を和らげるという意外な効果を生んだ。
何時の時代も、流行を動かすのは若い女の子である。
タックスから受けた警告などすっかり忘れたキャルルは、四人のパーティの先頭に立って坑道の深層へと向かう。
「おーっ! 出てくる出てくる! これは、空飛ぶ目玉かな?」
ダンジョンが産み出すへんてこ生物を、キャルルが一掃して回る。
弓も使えるキャルルにとって、中層をふわふわ浮いて向かってくる魔物は大の得意。
「はい100てーん! もう200てーん!」
今日は止める者もいないので大はしゃぎである。
「キャルルせんぱーい、ちょー強い! 」
「なかなかやるにゃー、キャルルのくせに」
二人の声援を受けて、エルフの弓は冴え渡る一方。
「おいおい、余り調子に乗るとだな……」
アスラウは一応冷静を保ち、魔力も温存していたのだが「俺もう600点超えたぞ?」とのキャルルの挑発にあっさり乗った。
「見てろよ!?」
アスラウの魔法が右へ左へと飛び出した。
仕方がないことである、二人は友達だがライバルなのだ。
魔物の数は増えたが、出てくるレベルは大したことがない。
勢いづいた二人に引きずられながら、四人はダンジョンの下層へと降りていく。
だが快調に進むキャルル達の後ろを、ゆっくりと付け狙う一団があった。
二人が切り拓いた道を悠々と辿りながら、脇道や隠し部屋などを探して回る。
それだけならば良くある話なのだが、この団のリーダーの目的はキャルルにあった。
「あねさん、本当にやっちまうつもりですかい?」
一人の男が、黒ずくめの女に聞いた。
「そうよぉ、ここで会ったが100年目なのよねぇ。あのガキの姉と兄には、わたくし酷い目にあわされましたの」
黒ずくめの女が、パシンと鞭を空中で鳴らした。
「へぇーあねさんに手を出すとは、命知らずな奴らですなあ」
男は適当に相槌を打つ。
「だからねぇ、ぎゃふんと言わせる必要があるのよ」
「ぎゃふん、ってまた古いですな」
余計なことを言った男に、女の鞭が飛んだ。
「あひぃ! あ、ありがとうございます!」
お礼を言った男を一瞥もせずに、女は歩き出す。
背が高くスタイルは抜群、ダンジョンにハイヒールでも足元が揺れる素振りもない。
手には治癒師の杖と鞭を持つ、”黒のグレーシャ”と恐れられまた一部から崇拝される超A級のヒーラーがそこに居た。
グレーシャは、以前の”太陽を掴む鷲”の副団長である。
団をもぬけの殻にしてミュスレアとアドラーに借金ごと押し付け、自身はレオ・パレスと呼ばれる大手冒険者ギルドへ移籍した。
全てが順調――嫌っていたミュスレアは弟妹ごと街から逃げるしかなく、大金をせしめ、大ギルドの幹部へ栄転――かと思われたが、たった一つの不確定要素があった。
今の”太陽を掴む鷲”の団長アドラーである。
命の恩人である三姉弟を救うため、アドラーは大陸を東へ南へ駆け回り、遂にはグレーシャの野望を砕いた。
哀れにもグレーシャは冒険者の街ライデンを追い出される事になったが、1年ほど前にひょっこりと戻ってきた。
しかも己の冒険者ギルドを引き連れて。
アドラーは今更関わりを持ちたくないと逃げ回っていたが、グレーシャの方では虎視眈々と復讐の機会を狙う……でもなかった。
実のところは相手にするつもりは無かったが、とある出会いが復讐心に火を付けた。
「あっグレーシャ! 生きてたのか!」
「ふん、誰かと思えばミュスレアとは。今日は厄日ね」
犬猿の仲の二人が、ライデン市の街角で出会ってしまった。
大気にプラズマが走るほどの緊張感の中、勝利の一撃はミュスレアが繰り出した。
「わたし今度、結婚するんだー。もう赤ちゃんもいるの。グレーシャさんも頑張ってね。結婚式に呼んであげようか? ブーケ欲しいでしょ?」
グレーシャ二十九歳独身にとって、痛恨の一撃だった。
それに加えて、何時の間にやらライデン市で一番の美人冒険者の称号は、ミュスレアの妹リューリアの物になっていた。
つまりグレーシャにとって、キャルルには仇を取るのに充分な恨みがある。
「泣いて謝るくらいまでは、虐めてさしあげましょう」
十人ほどを引き連れたグレーシャが少年少女の後を追う。
まだ実戦での苦戦経験は少ないが、常に強者から訓練を受けてきたキャルルも順調にダンジョンを攻略する。
あっという間に五層も突き進み、稼いだポイントは四千を超えた。
ポイントは胸に付けた魔法のカードに累積し、その情報は随時、地上の運営へと送られる。
運営では、このダンジョンの新オーナーが状況を見守っていた。
「結構稼ぐ連中がおりまんな。わても取っておきを出しますかいの」
新オーナーは、金の奴隷と呼ばれるカナン人。
儲かるためには手段を選ばぬ商業民族が、最近の冒険者ブームに目を付けていた。
このオーナーの名はシャイロック。
かつてアドラーに借金を背負わせた人物が、再起を賭けてこのダンジョンを買収していた。
「ほれポチッとな」
シャイロックがスイッチを押すと、ダンジョンの奥底で扉が開き、更に強大な魔物が住む区域へとつながる。
この新オーナーは、新人冒険者などに稼がせるつもりはない。
慌てふためいた新人どもが、魔物に追い立てられて逃げてくる。
そうすれば次は少しだけ強い連中を募集して稼ぐ、これを繰り返すつもりであった。
「空気が変わったにゃ、用心するにゃ」
最初にバスティが気付いた。
立ち止まって様子を伺うキャルル達のすぐ後ろに、グレーシャの一団が迫ってきた。
そして遂に。
「あら、ごきげんよう坊っちゃん達。お姉さんのこと、覚えてるかしら?」
「誰だっけ、おばさん」とキャルル。
「げぇ、グレーシャ。何でここに?」と言ったアスラウは、レオ・パレスにいた頃の顔馴染みである。
黒のグレーシャは、言ってはいけない単語を吐いた金髪の少年に狙いを定めた。
「あんた達、やっておしまい!」
ダンジョンの底から強力な魔物が上がってくる中で、冒険者同士の闘いが始まっていた。




