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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
二章 チュートリアルなんてなかった

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ある種の悪質なドッキリ



「あー、死人は出てないな」


 とある室内にて、テラはモニターを眺めながら穏やかではないセリフをとても暢気に呟いた。

 さて今回の一件。そもそも掃除当番というのが嘘である。

 室内は暗く、それでいて壁面にある複数のモニターが様々な場所を映しているせいで一部分だけがやけに明るい。何とも目に悪そうな光に照らされながらも、テラは自分の受け持つクラスの生徒たちの様子を眺めていた。


「きみさぁ……もっと段階踏んで修行とかさせたりしないの?」


 そんなテラに声をかける者があった。

 テラの向かい側に座り、横に広がるモニターを同じように眺めている。


「んあ? 段階踏んでたら強くなる前に死ぬだろ」

「でも段階踏まなかったらその時点で死なない?」


 どちらの言い分ももっともではあった。

 当事者からすれば冗談ではないと言いたくなるものでもあったけれど。


 テラとしてはできるだけ早く強くなってほしいという思いがある。

 それは、わからなくもないのだ。

 弱ければ簡単に死ぬし、強くなっても死ぬ。けれども、強ければその分生き残る確率は上がる。神前試合で死闘を繰り広げれば大半は死ぬけれど、それでもその場を生き延びる事ができる者もいないわけじゃない。


 次の神前試合まであと三年。


 そのたった三年で、どうにか神の前に出しても問題のない実力者を用意しなければならない。

 去年までに入った生徒たちの中にもそれなりに期待できそうなのはいるが、いかんせん絶対に大丈夫といえるほどではない。あの程度なら過去いくらでもいたからだ。

 だからこそ、期待は今年入ったばかりの新入生に向けられる。来年と再来年にもヒトがこないわけではないだろうけれど、仮に期待できそうなのが来ても残り時間が短すぎて仕上げる事ができるかどうかは微妙なところだ。

 それに、入ってすぐ神前試合に出るつもりのやつなど滅多にいない。いたとして、そいつはただのバカか余程自分の実力に自信を持ってるかのどちらかか、はたまた両方だ。


 もしかしたら天才的に凄いのが来るかもしれないが、そんな期待はすればするだけ虚しくなる。

 故に、今年入った生徒とそれ以前からいる生徒たちの中から見繕わなければならない。


 だがしかし、今年の新入生のなんと温い事か!


 どいつもこいつもいい子ちゃんばかりで扱いやすくはあるけれど、望んでいるのはそういうのではないのだ。もっとこう……いっそ世界を自ら掌握してやろうという程度に野望だとかがあるような、そんな無茶無謀を備えた相手を望んでいるというのに。神をも殺す、くらいの気持ちを持ってやってくる者など、まぁそういやしないのだが。いても大体実力が足りていない。


「段階踏もうと踏むまいと死ぬなら、普通にやったってダメだろ」

 相手の言葉に吐き捨てるように返す。向かいに座る人物は、きょと、と目を瞬かせてそうかなぁ? と納得がいかないように呟いた。


「今回がダメでも次回に持ち越せるかもしれないだろ」

「人材が育たなかった場合に限り、な。持ち越せる奴には限りがある。わかってんだろ」

「それもそうか」


 更にこの次の試合までロクな人材がいないまま、という可能性を考えるととても頭が痛い話ではあるが、無いとは言えない。事実過去にはあったのだ。

 そうして、学園を卒業した中で今なお現役と呼べるような実力者を集めて挑んだ事もある。

 だが、それはそう何度も使える手段ではなかった。


「じゃあさ、段階踏まないでいきなりこんなことしたとして、これでホントに強くなれるの?」

「生き延びればそれなりになるだろ」

「そうかなぁ……?」


 うーん、と呻いてモニターを見る。


 テラが教えているクラスの生徒たちは、掃除当番だという嘘にまんまと騙されて律義に掃除道具を持参して各場所へ訪れている。

 そうしてそこで、謎の相手に襲われて戦闘を余儀なくされていた。

 場所によって相手の実力も多少差があるので、上手くやれば生きて帰ることは可能だろう。

 一応テラも生徒たちの実力を考慮した上で割り振ったようだし。


 だが、旧寮に放り込まれた生徒たちはあまり大丈夫じゃなさそうに見える。

 確かに、才能というか潜在能力的には光るものはあるのだ。見る限りでは。けれどもではその実力を十全に活かせているか、となるととてもそうとは言い難い。

 仲間として協力するにしても、知り合ってまだ日も浅いからかそこまで連携がとれているかとなるととてもそうは見えないし、足引っ張りあってないだけマシ、程度でしかない。


 もし、彼らがもっとお互いを信用しあって協力していたならば。

 多分、苦戦するにしてもまだもうちょっとマシになっていたのではないだろうか。


 それ以前にここで襲われるとわかっていなかっただろう事から、結構呆気なく気を失ったりしている。多分あの旧寮にいる彼らは殺しはしないだろうけれど、でも勢い余って、という事がないわけじゃない。

 あまりに弱すぎれば手加減したって死ぬ時は死ぬ。


 それに最近彼ら、暇してるっぽかったから、そこにやってきたカモとかそりゃ張り切って遊ぶよなぁ……とも思うのだ。

 教師が率先して不幸な事故を起こそうとしているのはどうなんだろうと思うけれど、しかし命の危機に瀕した時に信じがたい力を発揮する者がいるのもまた事実。テラはきっとそういうのを狙っているんだろうけれど……とはわかる。わかるのだけれども。


(これ、死にかけた事に対してっていうか、後からテラにヘイト向かない? 普通に考えたら矛先そうなるような気がするんだけどなー……)


 声には出さずにそう思う。そのままちらっとテラへ視線を向ければ、しかし当の本人は涼しい顔だ。

 いっそ自分に対して攻撃仕掛けてくるならそれはそれでそのまま実践訓練でもしてやろうとか思っているのかもしれない。まぁ、授業で実践訓練みたいなのするのと、怒りによるテラてめぇこの野郎! みたいな勢いで攻撃してくるのとでは、相手のやる気も違うだろう。


(でもそういうの、誰彼構わずできるものじゃないからさ。仮にそうなったとして本番で上手くいくとは限らないんじゃないかなぁ……)


 思いはするが指摘はしない。言ったところで素直に聞き入れるような男ではないからだ。あと、自分を危険にさらす事に関して全く気にしていないタイプなので、身を案じるような事を言っても無駄だからというのもある。

 大体目の前にいるこの男はかつて神前試合で開幕自爆かました男だ。

 相手側巻き込んで派手に自爆するような奴が今更自己保身だとかを考えているはずがない。

 どうにかギリギリのところで救助が間に合ったとはいえ、下手をすればあの時点で死んでいた男でもある。


 それが今更自分の命を大切に、なんて言葉をかけられたからといって、素直に聞くはずがない。素直に聞くような人物ならそもそもあの時にあんなことはしなかった。

 自分の命も駒の一つに数えるのだから。必要だと判断したなら誰の命だろうと平気で切り捨てるような男だ。そんなのに命の大切さを説くとか、土台無理が過ぎる。


「もしかして、期待外れでガッカリしてる?」

「……否定はしねぇよ」


 テラの向けた視線の先を見て、もしかして、と思った。だからちょっと揶揄いついでに問いかけてみれば、思った以上のガチトーンで返される。


「そっかぁ……」


 可哀そうに。


 そこは声に出さなかった。過度な期待を向けられている彼も、テラも。どちらも可哀そうだと思えたので。


 テラは潰そうとは思っていない。これで成長してくれればと本当に思っている。これで潰れたらそれはそれで、とも思っているのだろう。なんて面倒な奴なんだ。

 いやまぁ、大体の連中が面倒くさいとは思っているけれども。


 モニターの中で、そんな視線を向けられているなんて気付いていない少年は仲間の一人を抱えて階段を下りているところだった。そうして一つ下の階の廊下に出る前に仲間の背を壁に預けるように置いて、周囲の様子を探っている――が、あまり悠長にしていられそうにないと判断したのだろう。すぐさま武器を構えて攻撃に移っていた。


 手にしていた大鎌の鎌部分が外れ凄い勢いで飛んでいく。

 うわ、やばいな。

 なんて思わず声を出してしまった。


 まさか外れるとは思っていなかったけれど、投げ方次第ではブーメランのようにも、はたまた壁から振り子のように飛び出してくるギロチンみたいなトラップにもできそうな感じだ。実際まさかあんなのが飛んでくるとは思ってなかった彼女は一瞬反応が遅れて鎌の先端が突き刺さり、その場に座り込んでいる。死んではいないようだけど、あれは痛そうだなぁ……となんとも暢気な感想を抱いた。


「今回はさ、及第点て事でいいんじゃない?」


 正直このまま更に戦わせてもお互いジリ貧になりそうだな、というのが正直な感想だった。


「あいつらにまだ余力があるのに?」

「んー、でも、彼、魔法使えるよね。じゃあ、その場合お互い無事じゃすまないよ」

「……なんだって?」

「魔法、使ってた。おかしいよね、本来ならあの中での魔法のほとんどは打ち消されるはずなのに」

「いつ、そんな魔法を」

「建物入ってすぐ。暗かったからね。ね、おかしいよ。明かりの魔法なんて本当なら発動すらできないはずなのに。それ以外は全部魔術だった。でも、攻撃するのに魔法が使えるならお互いに危ない」

「………………」


 口元に手を当てて何やら考え込んでいるテラは、果たして何を考えている事やら。


 そういえば彼は、気付いたら精霊と契約していたんだったか。

 けれどもこの学園にいるはずの精霊と契約をしたわけではない。学園の外から流れてきた精霊がたまたま彼と契約を結んだにしても。

 その精霊の痕跡は見つからなかった。


 それ以前に。


 本当に彼が契約したのは精霊なのか。

 いや、魔法が使えるようになっているなら精霊で間違いはないはずだ。

 ない、はずなのに。


 ならば、あの旧寮内で魔法が使えるのはおかしい。学園の外にそんな強大な力を持つ精霊がいるとは聞いていない。いるならそれなりに情報があるはずだ。

 けれども調べてもそんな情報は出てこなかった。

 なら、学園の精霊が契約を結んでいながらそれを意図的に隠している、と考えるべきか。


 ……何のために?


 隠す必要性がわからない。

 そんな事をしても意味がない。


 ただの戯れ、と考えるにしても……それでもだ。


「お前が言うなら今回はそうしよう。悪いが、行ってくる」

「あぁ、うん」


 テラも考えたところでわからなかったのだろう。だからこそ、今回はここで終わりにした方がいいと思ったのかもしれない。あっという間に姿が消える。旧寮に向かったのは明らかだった。

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