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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
終章 その後の僕らは

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たとえ光が陰っても



 その後のウェズンたちの生活は、実家近所の町でイアと話していたように特に波乱万丈に満ちたものではなかった。新しい神の楔と交換する作業をこっそりとやってはその他の依頼をこなす。

 その途中で友人たちとバカ騒ぎしてみたり、トラブルに巻き込まれたり……


 多少のいざこざはあれど、概ね普通の人生であると言えた。



 ウェズンとファラムは結婚したし、その後手加減を覚えようとしていたファムには、かつて自分も細かい制御が難しかったと言ってファラムがファムに手加減のやり方を教える事となった。


 ファーゼルフィテューネに密かに憧れていたファラムは、まさか自分が彼女に教えを請うどころか自分が教える側になるとは……と苦笑していたものの、嫁と姑の仲が良好である事にウェズンもにっこりである。


 イアとワイアットも結婚をしたものの、その事はあまり周囲に知らせてはいなかった。

 ワイアットに恨みを募らせた相手にイアが狙われる可能性を考えての事、とワイアットは言っていたがイア本人がけろりと、面倒だったから、と暴露している。


 ドレスとか憧れがないとは言わないけど、でもファラムの結婚式見てたらなんかもういいかな、って……というのがイアの供述である。一応ドレスに興味があったのは本当らしく、着るだけ着て写真撮影はしていた。それで満足したらしい。


 レイとウィルはどうなんだ、と周囲がせっついたが二人はそういう存在ではないらしい。

 親分と子分。根底にあるのはそういったものと、どこまでいっても友人であるというのが二人の言葉だ。

 一応、一時期結婚を考えなかったわけではなかったようなのだが……


 なんか今更だねぇ、とウィルが言った事でレイもそうだな、となったようなので。


 いずれ必要だとなった時にしれっと結婚してそうだな、とウェズンは思ったが口には出さなかった。

 こういうのは第三者が口を挟むとこじれると相場が決まっているので。


 ルシアは度々ワイアットに突っかかってはいるけれど、殺し合いにまでは発展していない。

 何よりルチルの敵としてワイアットを傷つけるために彼の身内を傷つけるとなると、その矛先は新たな家族だ。

 自分を養子にした家にそれを向けるわけにも……となった事で、定期的にワイアットに攻撃を仕掛ける程度に留まっている。

 ワイアットもそのあたりを理解しているようなので、毎回軽やかにあしらっている。


 むしろそのせいで余計にルシアの怒りに火を注いでいないかと思うのだが、ルシアとワイアットに関してはこの関係で丁度いいらしい。

 殺し合いに発展していないなら口を挟む必要もない、と周囲もスルーしている。完全にお馴染みの光景になりつつあった。


 ヴァンはそのまま研究所に根を下ろしている。一度国に帰らないのかと聞いたが、はははと笑ってスルーされた。瘴気汚染の耐性は相変わらず人より低いが、それでも浄化されつつある場所が増えてきたのもあって、彼の行動範囲も自然と広がったためか、毎日それなりに楽しそうではある。


 アレスはというと、実家と縁切ってきた、という言葉だけ告げてそれ以降はやはりヴァンと同じように研究所に入り浸っている。

 とはいえ、時々ふらりとどこかに出かけたりして案外日々をエンジョイしているようなので。

 これもやはり他人が口を挟めるわけでもなかった。


 時々ジークがアレスの外出に付き合ってるのを見ると、どうやら一応過去の蟠り的なものはそれなりにお互いの中で消化できたのかもしれない。


 ハイネはというと元々そんな気配があったが、休日にはよくあちこちに出かけて各地の美味しい物を求めている。各地の名産だけでは飽き足らず、自分自身で美味しい物を突き詰めたい、という思いもあったからか研究所所属ではあるもののどちらかといえば料理人としての道に進んでいるといってもいい。

 かつてテラが振舞ったとても美味しい海獣のバーベキュー以外にもいくつか美味しいものを教わったようで、今でもテラの事を師として仰いでいる。


 ザインはというと、意外と周囲と上手くやっていた。

 特定の友人がいると言うわけでもなく、ウェズンたちの中でも満遍なく誰とでもうまくやっているのがザインである。ワイアットとそれなりに良好な関係を築けるだけあって、学園と学院の確執のようなものがなくなれば彼が一番人脈を築いたと言っても過言ではない。


 ちなみにシュヴェルもワイアットと同じように強くなるべく鍛錬を重ねている。

 ワイアットがファーゼルフィテューネに秒殺されたのを見て、マジか……と一番恐れ戦いていたのは彼だ。

 ワイアットの強さを認めていたし、いずれ自分がそれを倒して上にいくのだと思っていたのに、更なる強敵の出現に今のままではまだまだだと思ったらしい。


 むしろワイアット以上に修行に打ち込んでいる。

 ちなみにその修行に手を貸しているのは誰あろう、ウェインストレーゼ――言うまでもなくウェズンの父だ。


 ウェズンも時々はその修行に参加させられるものの、研究所の業務もあるので彼らほど打ち込めない。


 マジで世界がまたなんか危機に陥ったら今度こそあいつらに勇者として世界救ってもろて……という言葉を聞いたのは、酒の席で一緒だった友人たちだけだった。


 ちなみにウェズンの相棒を名乗ったオルドはというと、その時ウェズンの目の前でシェイカーを振ってカクテルを作っていたので勿論彼もその呟きは耳にしている。

 なおオルドのカクテル作りの腕前は可もなく不可もなくであった。

 そのくせ得意顔で提供するので、ウェズンからはとても微妙な反応を返されている。

 肉体を得て間もないので、まぁそういうものなんだろうな……で見守られている事をオルドは知らない。



 魔女、という事もあってイルミナとアンネはその後よく関わるようになった。

 魔女として一人前になれた、と胸を張って言えるかというとイルミナはまだ無理だと言えるけれど、それでもだからといって身近に魔女がいるのだ。であれば、彼女の近くで魔女としての研鑽を重ねるのもありだと判断したのだろう。


 アンネからすればアンネとイルミナは確かに同じ魔女だけど在り方が異なるものだと思っているので、観察対象にしているらしい。

 とりあえずお互いの利害が一致しているようではあるので、案外上手くやっているように見える。


 魔法の研究などをしているのをよく見かけるが、その場には魔女ではないがアクアも一緒だった。


 アンネは可愛いものが好きだ。

 イアを妹として可愛がっているのは最早仲間内で知らない者はいない。

 イアと同じように小柄なアクアはそういう意味ではアンネのストライクゾーンに刺さったし、なんだかんだイルミナがアンネに懐いているのも刺さったらしい。

 ちょろ……と呟いたのはシュヴェルであるが、シュヴェルはアンネの中で可愛い判定からは外れているので当然その後は喧嘩になった。


 ちなみにその光景をスウィーノとレジーナも目撃して、なんとか止めようと慌てふためいていたけれど、この二人では喧嘩を仲裁する事はできなかった。無力である。



 レスカから世界を取り返したスピカの復活によって、精霊たちも学園や学院という派閥を抜きにして自由にやりとりができるようになったらしく、最近ではゴーレムたちと一緒に学園や学院の雑務などを手伝っている姿が見られるようになった。教師として教壇に立つ精霊もいるが、他の教師より無茶振りが目立つ事もあるので新入生たちが振り回されているのをウェズンたちも何度か目にした事がある。

 けれどもその程度ならまぁ、可愛らしいものだろう。


 少なくとももう学園と学院で殺し合いをする必要はなくなったのだから。


 まぁ、教師として生徒に難題吹っ掛けてるリィトに、

「うちの弟可愛くないだろマジで」

 といったイフにウェズンとしては驚いたのだが。

 えっ、兄弟……えっ?

 そんな感じで二人をガン見してしまったのも今ではいい思い出である。


 あまり生徒たちの前に姿を見せなかったメルトやクロナも最近は少しずつ人前に姿を見せる事が増えつつあった。

 とはいえその大半は研究所に来てのウザ絡みであるが。

 今まではそんな事をする余裕もなかったので、ウェズンたちは甘んじて受け入れている。


 学園を卒業してから既に数年が経過しているが、そう言う意味では世界は概ね平和である。


 だからこそ、ウェズンたちは知らない。



 世界の片隅、レスカがかつてこっそりと作り上げていた空間に、彼女が残した遺産がある事を。



 ――それは、イアが言うタイトルも朧げな〇〇大戦、原作におけるラスボス的存在であった。


 ウェズン少年が仲間たちと共に神前試合に挑んだ後に戦う事になっていた、神の依り代。

 直接的に姿を見せない神ではあるが、しかしその力のほとんどをつぎ込んで作られた実質神と呼べるモノ。


 原作では満身創痍な状態で主人公たちが挑む、文字通りのラスボス。


 それが、世界の片隅にこっそりと、亜空間に隠されたままそこにある。




 本来ならば脅威となるべきそれは、しかし既に脅威ではなくなった。


 レスカは既に存在しない。スピカがこの世界の主導権を取り返し、レスカの命はとうに消えた。

 彼女が力を注いで己の代わりに戦わせるはずだった人形は、しかし力を注ぐ相手がいなくなった事で。



 世界を脅威に陥れる事もないまま、長い年月をかけてゆっくりと朽ちていくのであった。

 誰にその存在を知られる事もないままに。

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