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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
四章 恐らくきっと分岐点

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現実問題として難しい



 お悩みを持つ相手はといえば、アレスの想像通りウィルであった。


 ファラムにもそれなりに相談してきたのだろう。けれどもいい案が浮かばず他の誰かに――となったところでアレスに白羽の矢が立てられた、というところだろうか。

 ウィルもファラムも他に話をする相手がいないわけではない。ウィルは人懐こい性質だし、ファラムだってちょっとおっとりしているものの周囲とはそれなりに上手くやっている。

 だが、友人と呼ぶ間柄の者はいるけれど、ファラムにとってのウィルやウィルにとってのファラムは友人通り越して既に親友と言ってもいい。

 他にそういった相手がいるなら相談相手もそちらを選んだかもしれない。

 他の友人に相談するにしても、内容が内容なのかもしれない。

 それ故に少し距離があるアレスに、となったのだろうか。


 相談内容はまだわからないが、とりあえずそういった感じを想定する。



 教室のドアを閉めて、そうして周囲に音が漏れないよう防音の魔法を展開させたウィルは、あのね、と防音魔法を展開させたにもかかわらずビックリするくらい小さな声で切り出した。



「――学院を出て学園にいきたい、ね」

「うん、今ならまだいけるかな、って思わなくもないんだけど……」

「難しいだろうな」

「そっか……」


「あの、どうにかなりませんかアレス。わたしも一応調べてみたりはしたのですが、転入自体は留学生だとかの話もあるのだから不可能ではないと思ってはいるのです。いるのですが……」


 カチャ、とちょっと下がった片眼鏡モノクルの位置を微調整しながら、アレスは二人そろってしゅーんとしているウィルとファラムを見た。


 冗談だとかその場の勢いやノリで言っているわけではない。本気でその方法を模索しているのだろう。


 確かに留学という制度があるので不可能ではないと思う。

 実際今、学院にだって他の学校からの留学生がやってきているのだから。


 けれども――


「留学制度を使って学園に転入する、というのは他の学校だからできる話であって、学院から学園、もしくは学園から学院は難しいだろうね」


 もう一度、その部分を強調する。



 制度的には可能であるのだ。

 けれども難しいと言われている原因、それは――


「今更言うまでもないけれど、学院は学園に強襲仕掛けたり交流会でも殺し合いをしてきた。学外授業で戦った事がある者だって少なくはないだろう」


 アレスはわざわざ自分から喧嘩を吹っ掛ける真似はしないが、それでも恐らく学院の生徒に仲間を殺された学園の生徒が、殺したのはアレス本人でなくとも学院の生徒というだけで戦いを挑まれた事もある。しっかり返り討ちにしたけれど。何故って自分がやったなら敵討ちも理解できるが、ただ同じ所属の知らん相手の尻拭いのために自分が死んでやる義理などどこにもなかったので。


 勇者も魔王もあくまでも肩書的なもので、神前試合でやるべき事はどちらもそう変わらない。ただただ今まで持ち得てきた能力を使っての殺試合ころしあいだ。

 それはお互いにわかっている。不満を述べたところで神が考えを改めない限りは続くし、ボイコットしようにもしたところで世界の崩壊が早まるだけだろう。

 今、こうして定期的に神の前でくだらなくも真剣に殺しあう姿を見せているという娯楽提供をしているがために世界は延命されているに過ぎない。


 やる気のない試合を見せれば神はすぐさま神前試合そのものをなくすだろうし、そうなったら世界は崩壊まっしぐらだ。救える手段をどうにか探そうにもその時間すら失う事になる。


 故に、神前試合でお互いが真剣に命を賭けるだけの戦いのため。

 お互いに敵であるという認識を持たねばならない。

 たとえ敵側に自分の親友がいたとしてもだ。


 むしろ親友同士でお互い手心を加えるような事をすれば神はすぐさま興醒めしつまらない試合を見せた事による怒りを隠す事なく出してくるだろう。

 そうならないために、最初の段階からお互いに敵であるという認識を植え付けられる。


 本来ならば目的を同じとする同士であるはずなのに。



 学院も学園も実力的にそこまで大差はない。

 適性といったってそれはあくまでも能力値的なものであって、人格が勇者に向いているだとか魔王に向いているだとかまで選別されているわけでもないのだ。

 大体勇者に向いてる性根だとか人間性とは何だという話になるではないか。特にワイアット。

 あいつ絶対人類の敵だろ。

 そううっかり呟いたとして誰も恐らく反対意見を出さないとアレスは思っている。ただ、そこで賛同した場合あとからワイアットがどういう行動にでるかもわからないから、賛同意見も出てこないだろうとも思っている。敵に回すと厄介な相手を率先して敵に回そうなんていう命知らず、そういるものではない。



 なのでまぁ、学院から学園に、またはその逆、というのは本来ならば特に問題はないのだが。

 しかし両校敵対関係にあるのが常だ。


 学院の生徒が学園に転入したとして、今日からきみたちの仲間だからよろしくね、となったとしよう。

 その中に、かつて授業の一環とはいえ親友をそいつに殺された相手がいた場合。

 まぁ間違いなく仲良くできるかとなれば……無理だろう。

 殺した側は今はこちらの陣営だから、というかもしれないが、殺された側からすればだからすべてを許して水に流せとなるはずもない。

 勿論中にはそれら全てを飲み込んで割り切れる者もいるかもしれない。

 けれどもそこまで精神が達観しきった生徒はそういるものでもないのだ。


 何かの拍子に事故を狙って相手を殺そうとする者も出るだろうし、それ以前に堂々と戦いを吹っ掛けるかもしれない。

 当たり障りのない扱いを受けていたとしても、ある日突然牙をむかないとは限らない。


 そう考えると学院から学園に行く生徒は決して安全とは言い難い。

 その逆に学園から学院に行く生徒も同じだ。

 学園は基本襲われてそれを迎撃する側であるけれど、正当防衛だろうと何だろうとそれでも友を殺された誰かからすれば、許せる存在とは言えず。表向き友好的に接する事はあるかもしれないが、いつそれらが引っ繰り返るか……



 ワイアットみたいに誰からも手を出す方が恐ろしいと思われるくらいの実力者であれば仲良くした方が得策と考えたり、敵対しない方がマシと思われたりするかもしれない。まぁ決して心の底から仲良くはできなくとも。

 けれどもそうでなければ、かつての仲間が敵に回る挙句味方になるはずの相手もいつ敵になってもおかしくはない――学園から学院に行こうと、その逆であろうともそこは変わらなかった。


 そういう危険性があるが故に制度的に使用できなくもないが難しいのである。学院から学園、もしくはその逆の転入は。


 これがまだ、入学して間もない頃。それこそまだ学園に強襲をかける前だとか、その授業に参加しなかっただとか、それ以外の学外授業で学園側の生徒と遭遇しても戦った事がないだとか、向こうにまだ敵と認識されていなければ可能性はあったと思う。

 しかしそれでもかつて学院にいた、というだけで色眼鏡で見てくる者がいないとも限らないし、そう考えると向こうで上手くやっていけるかとなると……ほとんど運が絡んでくる。


 しかもウィルは学園への強襲授業に参加していた。

 それは勿論噂で探していた友人がそちらに入ったと聞いていたから探すつもりもあっての事だろうけれど、そこでウィルは数名の生徒を仕留めている。何となく付き添いというか付き合いで参加したファラムだってそうだ。参加したのに何の成果も出せませんでした、では学院での成績に響く。

 率先して倒しまくったりはしていなかったけれど、それでも最低限成績に響く事がない程度には成果を出している。

 つまりは、学園に倒した相手の親しい誰かがいる可能性は充分にあるし、その場合学園に転入したとして危険が付きまとうのは言うまでもない。


 普通に転入したい、だけではまぁ難しいのは確かだ。



 ウィルは友人と決着をつけるために、噂で友人が学園に行くらしいと聞いたからこそ敵対する学院へ来た。その時点では仲直りの可能性なんてこれっぽっちも考えていなかったからだ。

 自分が死ぬか相手が死ぬか。

 そのどちらかでしか決着はつかないと本気で信じていた。


 だがしかし実際は。


 周囲の人間の思惑などでそう思えてしまっただけで、当人同士は元々そんなつもりはなかったのだ。

 一方的に恨みを募らせていたウィルは、レイが自分を始末しようとしていなかった事を知ってから尚殺意を持っていたわけではない。むしろレイは自分を見捨てるだとかそんなつもりもなかったし、あの時もう二度と戻ってこないと思っていた指輪だって……


 とっくにどこかで壊れていてもおかしくはなかった。


 それをずっと持っていたのだ。

 ウィルに渡すために。


 身につけるにはちょっと傷とかもあるしいつ壊れてもおかしくはないので今はリングにしまっているが、それでもこの指輪は今でもウィルにとっては大切な宝物である。


 今はもうウィルはレイと戦う理由が存在しない。

 それどころか、以前のような関係に戻れたら、とすら思ってしまう。今更、と言われてしまったとしても。


 先輩にあたる上級生を見ても実力的にあまり凄いと思える相手はいない。

 このまま、来年再来年に期待の新星みたいなのが来ない限り、学院の神前試合に選ばれる人間は恐らく確定しているだろう。

 ワイアットは人格はともかく実力は申し分ない。まず選ばれる。

 その次に可能性が高いのはアレスだ。


 そして、二人以外で選ばれる可能性があるならば、ウィルはそこそこ高い可能性があると自己判断していた。ワイアットやアレスと戦ってウィルが勝てるかと言われれば多分無理だろうけれど。けれども足を引っ張り続けるくらいの足手まといというわけでもない。

 二人のサポートに回って学園側を引っ掻き回すくらいはできるはずだ。


 だが、その場合向こうでは誰が選ばれるかが問題である。

 レイは。

 自分の親友は。

 選ばれる可能性がとても高いとウィルは思っている。親友としての欲目を抜いたとしてもだ。


 そしてもしその予想が当たってしまったら。


 ウィルは、今度こそ本当にどちらかが死ぬまでレイと殺しあわなければならなくなってしまう。



 その未来を想像した時、思わず震えた。

 どうして。

 以前までなら、ふくしぅしようと口に出していた時ならば、いよいよこの時がきた! と言えたかもしれない。けれども今はもう違う。違うのだ。


 他はともかく親友だけはこの手にかけたくはないし、かけられたくもない。

 それがどれだけ傲慢で我儘な事であるかはわかっている。わかった上でそう言うのだ。


 親友だ。敵として見る事はできない。

 かといって自分が試合に選ばれないようにするのも嫌だった。

 だって自分の知らないところで親友が死んでしまったら……?


 アレスならレイと戦うにしても、ギリギリとどめを刺さずに生かしてくれるかもしれない。

 ワイアットは間違いなく殺すだろう。だからこそその時はこっそり妨害してでも助けなければ。

 ウィルならどうにかそれができると思いたかった。他の誰かに頼んだところで、そこまで余裕がなければできるはずもない。


 命に関する事を人任せにはしたくなかった。


 いずれ戦うかもしれない未来。

 それを思うと……今までと状況が違ってしまっただけでこうも恐ろしくなるなんて。


 けれども折角仲良くなれたファラムと敵対関係になるのもイヤだった。


 とんでもなく我儘である事は否定しない。

 だからこそ悩んだ。悩んで悩んで寝不足になるし食欲も落ちるし良い事なんてなんにもなかった。


 自分一人ではどうしようもなくなっていよいよ心配してきたファラムに思っている事を全部打ち明けた。

 ファラムは少し悩んだ後、可能性はゼロではないと言ってくれた。慰めかもしれない。けれども、自分たちだけではどうしようもないから、とまたもやアレスに協力してもらおうと言ったから。


 だからこうして呼びだした。


 しかし、アレスの口からは難しいだろうね、と言われてしまって。その難しい理由を説明されてしまえば。


 ウィルにしてみればもうどうしようもなくて、何もかもが手遅れなのだと思ってしまうのも無理はなかった。

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