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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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もはや手遅れ



「気分転換ってやつが必要なのかもしれないな……」


 そうのたまったのは、色々と限界を迎えている生徒たちを見た教師――つまりはテラである。


 基本的に交流会の会場を設置するのは生徒たちに一任される。

 こういうととても平和的に聞こえるが実際はトラップを仕掛けるのは全て生徒たち任せである、というのが真実だ。

 教師が出てきてしまうとそれこそ向こうも教師が出てきても文句が言えなくなってしまうので、基本的に教師の介入は無しだ。

 とはいえ、まぁ、ヒントくらいはもらったりする事もあるわけだが。

 しかしあくまでもヒントだけで、基本的に発想も実行も生徒たち主体だ。


 教師はその間定期的に見回ったり現場監督のような形で見守っていたりするが、彼らも暇ではないので学園の方で仕事をしている事の方が多い。


 そして学園で一仕事終えたテラがさて生徒たちの様子はどうなってるかな、と思ってやってきてみれば、控えめに言って惨状としか言いようのない状況になっていた。


 響く奇声。


 目の下に真っ黒い隈をこさえた生徒たち。

 虚ろな眼差しは本当にそれ、ちゃんと物見てる? と言いたくなるくらい焦点が合っていない。

 人によっては口を半開きにしたままなので、焦点の合わない目とセットだと完全に廃人にしか見えない。


 あれ、うちのクラスなんかヤバイ薬に手でも出したっけ……? とテラは一瞬訝しんだ。

 完全に危ないお薬が切れて禁断症状通り越しましたとか言われたら信じてしまいそうな見た目をしている。


 えぇ……? 交流会の準備でこんな地獄の亡者みたいになるって事、ある……?


 思わずそう呟きたかったが、ギリギリでテラはその言葉を飲み込んだ。


 思い返せば自分が学生だった時は、自分が囮になって全力で罠に誘導してついでに罠で仕留められなかった相手は自分の手で仕留めていたので、テラは準備期間中どちらかといえば罠の位置をひたすら頭に叩き込むなどしていたため、自分が罠作りで四苦八苦するという事がなかった。しかし新しい罠を追加でここに仕掛けるだとかの話が出るたびに覚える事が増えていくので、そこそこに頭を使ったという記憶はある。

 しかもテラの場合、最初の一年はともかく二年目以降は他の区画の罠の位置も完全に覚えた上で他の区画にお邪魔して勇者側の生徒を食い散らかすみたいな真似をして攻撃を仕掛けていたのだ。


 逃げ惑う学院の生徒たちを追い詰めたり逆にこちらを迎え撃とうとしていた生徒と戦ったり、という当日忙しかった記憶はあれど、準備期間中にこうまでへとへとになった事はなかったのだ。罠の位置を把握するのにそりゃ頭を使って疲れた記憶はあるけれど、それだけだ。


 だがしかし、とテラは思い直す。


 自分の時はそうやってある程度動ける戦力がいたから立ち回るのに多少罠のない空間があった方がいいから、という事で罠の配置場所はそこそこ緩めにしてある所もあったけれど今の彼らはそうじゃない。

 一応実力的にそこそこいい線いってるのはいるけれど、しかしかつてのテラのように単独で学院の生徒たちを叩きのめせるか、となると恐らくは厳しい。


 何せ今年の学院の新入生の中にはかなりの実力者が紛れている。

 それはこちらの学園にも言える事ではあるけれど、実力的に拮抗、もしくは若干向こうが上かもしれないな……と思えるので、下手に潰しあうような事になれば不味いのはこちら側だ。


 相打ちでどっちの生徒も消えるならまだしも、こちらの手駒ばかりが消えるような事になるとそれはそれで困る。


 もうお前いっそ遊撃隊みたいなノリでいけよ、とか気軽に言えるはずもなかった。

 ちなみにテラはかつて学生だった時にそう言われて、んじゃそうするわ、と返したクチである。

 テラの時はそれで大体上手くいったけれど、しかし彼らにそれを言って上手くいくとは到底思えなかった。


 実力が、というよりは多分純粋に向こうとの属性とか相性とかそういうやつが悪いのだと思っている。


 ともあれ、ここで彼らの様子を見ていても仕方がない。このまま放置して彼らが勝手にメンタル回復させて体力も回復させてさーてやるぞー! となれば放置で全然かまわないのだが、恐らくこれはこのままにしておいたら駄目なやつだ。


 それでなくとも今年初めての交流会。右も左もわからないままほとんど手探りでやり始めたのは言うまでもなく、そしてそんな状況であっても来年頑張ればいっかー、なんてノリで適当にやるでもなく、大真面目に学院の連中を叩きのめそうとしている。


 正直ちょっといい子ちゃんすぎてお前らに足りないのは凶暴性とか殺意とかそういうどす黒さだと常々のたまっていたテラではあるが、だからといってここまで真面目に頑張る生徒たちに何も思わないわけじゃないのだ。やる気も実力もなかったらそれはそれで勝手に学院の生徒に殺されてるだろうけど、彼らは彼らなりに最適解を求めて行動している。

 もうちょっと手を抜いてもいいところは抜いていいんだがなぁ、という思いもないわけじゃないが、不真面目にやられるよりは真面目にやってる方が見ている分には好感度が高めである。まぁ、雑に不真面目にやった場合下手をすれば自分たちの命も危ういという事くらいは理解しているようだし、そりゃ真面目にやるしかないって話なんだが。


 とはいえ、落としどころも見つけられない状態で延々作業をし続けたところで作業効率が落ちるのは言うまでもなく。


 ここでテラが優しくお前らちょっと休め、とか言ったところで多分きちんと聞いて実行する生徒はいないだろう。真面目ゆえに、とことんまでクオリティを追求し続ける。きっと交流会が終わった時に、ようやく安心して眠れるのではなかろうか。


(……交流会終わるまでまともに眠れないとか流石に不味すぎるだろ……)


 声には出さなかった。聞かれて、まさかそんなあはは、とか笑い飛ばされたりする気しかしなかったが、そうやって笑い飛ばしておきながら実際本当にロクに眠れぬ日々を送りそうで洒落にも笑い話にもならない予感がひしひしとする。


 それでなくとも精神的に既に色々と限界を迎えた生徒の多い事。この状態で交流会まで乗り切れるか、と聞かれればテラは躊躇う事なく否と答える。それくらい限界の生徒たちが多かった。


「大体要塞作るって時点でどうかしてるとは思うけど、そこにさらに攻城兵器つけるとか言い出したのどいつだよ……」

 攻城兵器と言っていいかはわからないが、魔導キャノンとかついてるのを見てテラはいやこれマジで作ったのかヤバイな……と慄いていた。

 魔導キャノンは事前にチャージされた魔力を撃ち出す武器だ。光線銃だとかレーザー砲とかそういう物に近い。魔力リソースが多ければ多いだけ威力や撃てる回数が増えるので、魔力に余裕があるならこの手の武器はいい選択と言えなくもない。

 ただ、事前にチャージしておいて撃ち切ったら後は放置、なんて状態であれば精々が威嚇用だろうか。

 魔導キャノンの規模的に広範囲に攻撃ができるものではなさそうではある。恐らく要塞に近づいた相手に攻撃をぶち当てて、威嚇で帰ってくれれば良し、そうじゃなくともそこそこ攻撃して数が減ったらいいな、という感じだろうか。


 魔力をチャージするための人員だとか魔法道具があれば要塞に近づく相手にある程度攻撃も仕掛けられるが、そうでなければ最初に近づいた奴に向けた威嚇用。

 威嚇用としての用途であるなら威力もそこまで高くはしていないのだろう。


 テラが学生だった頃、こんな物作ろうとか言い出す頭のおかしい奴はいなかった。

 いたらいたで全力で悪乗りしてただろうなー、とテラは思うが、正直その場合労力とか色んな事がもっと大変な事になっていたはずなので、そうならなくて良かったなとも思う。


 あまりにも物々しい雰囲気漂う要塞は、いかにもここが重要ですと言わんばかりだ。


 こりゃあコインの隠し場所ここが一番無難かな、と思えてくる。しかし同時に学院の生徒が見てもここにコインが隠されてるんだろうなぁ、と即座に理解されるだろう事もわかっていた。


「……まぁ、今はそこら辺さておくとして。


 よーしお前ら、今日の作業は中断してこれからちょっと気分転換すっぞー!」


 すぅ、と息を吸って広範囲に聞こえるように声を張る。そこかしこで生ける屍のようになっていた生徒たちはのろのろと視線を声がした方――つまりはテラ――へ向けて、そこでフリーズした。

 動きを止めるだとか表情をなくすだとか、そういうものではない。

 単純に情報が追い付いていないのだ。いわば処理落ち状態である。


「気分転換……?」

 ぽつりと呟いたのは誰だったか。

 まるで初めて聞く言葉のような、意味を理解していないような呟きはさわさわと周囲に広がっていき、そうしてある程度広まったところでようやく脳に理解が追い付いたのだろう。


「配置転換はイヤだ!」

「もうどこ割り当てられても面倒な事しか残ってない!!」

「折角慣れてきたのにまた別の作業に回されるとか勘弁して下さいッ!!」


 そうして聞こえてきた声は。


「ちげぇよそうじゃねぇよ落ち着け馬鹿ども」


 完全に社畜の叫びであった。

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