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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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選ばれた理由



 当時レイの他に子供と呼べるのはその友人だけだったようで、大人たちが船の修理をしている間二人は無人島探検をしていた。まぁ、下手にその場に留まっていても邪魔になるかもしれないし、暇を持て余して自分たちも手伝う、と言って邪魔になったりするよりは、勝手に遊んでいてくれるなら怪我さえしなきゃまぁいいよ、となったのは想像に容易い。


 ちょっとお腹が空いたとしても島を少し移動すればそこら辺で果物が採れた事もあり、飢え死にだけはしないだろうというのも、二人だけで遊ぶのを許されていた一因かもしれない。先に見回った大人たちが明確にここは危険だ、と判断した場所がなかったからというのもある。


 とはいえ、木登りだとかをして上から落ちるだとか、海で遊んで流されてだとかの危険はいくらでもある。

 まぁレイだって何が危険で何が危険じゃないかの判断が完璧にできるわけでもなかったが、それでも大体は把握できていた。そうじゃなかったら恐らくは船の中から出してもらえなかっただろう。もしくは、大人の目の届く範囲だけでの行動しか許されなかったか。


 レイだけではなく友人もある程度の分別はついていたので、むしろその友人がレイのお目付け役を任されていたのかもしれない。


 だがしかし、その友人とは島ではぐれたという。


「念の為聞くけど」

「おう」

「それってもしかして怖い話とかに該当する?」

「いや。たまたま俺らが船から離れた場所で遊んでたら突然の嵐に見舞われて、身動きロクに取れなかったってだけだぞ」

「身動きとれなかったのにはぐれたの?」

「あぁ。急な嵐、荒れる海。いつもなら来ないような場所にまで届く海水。風も強かったし、下手に海に流されるような事になれば荒れた海なんて危険なのは言うまでもないだろ。

 二人でどうにか少しでも高い場所に、って移動して雨風を避けようとしたまでは良かったんだけどな。

 俺が、間抜けにもそこから落ちたんだ」


 潮の満ち引きで海だった場所が歩けるようになったりその逆になったり、というのはあるので、別におかしな話ではない。恐らくは悪天候だけではなくそういったものも関与したのではないか。

 どちらにしても自然が牙をむくような事になれば、人間などひとたまりもない。


「濁流にのみ込まれて、死ぬと思ったあたりで俺は助けられた。船の修理はどうにか間に合ったらしくてな。気付いたら船室だった」


 九死に一生じゃん、とは言えなかった。あっ、なんかその先の展開想像ついたわ……という言葉も飲み込む事にした。


「嵐が収まって、頼み込んでもう一度あの島に戻って来た時には、あいつはどこにもいなかった。

 それだけの話だ」


 あー、やっぱりなー、という言葉も極力表情に出さないようにして、ウェズンはそっか……とだけ相槌を打った。


「とりあえず、あの島に危険はない」

「そっか……」


 ま、悪天候だとかで当時の再来にでもならない限りはそう危険な目に遭う事はないだろう。そこだけは理解する。ところでこれってフラグになったりするんだろうか、とふと嫌な考えがよぎった。

 だがまぁ、仮に島についてから嵐に見舞われたとして、必要な物を確保しないといけない事にかわりはないので。

 そこら辺の事を深く考えるのはやめにした。




 その島がどこにあるかはわからないが、神の楔がないというのであれば到着するまでまだ時間がかかると思っていいだろう……そう思っていたのだが、そんなウェズンの予想をあっさりと裏切って目的地にはそろそろ到着すると言う。

 設計図を入手しに行った時点でレイは実家に連絡を入れて目的地でもある島に最も近い場所にある船を借りる事にしてあったからだ。実家ってどこだよ……と思ったけれどそこは怖くて突っ込めなかった。


 海賊の拠点にしろ盗賊の拠点にしろ、なんかロクなもんじゃない雰囲気ありそう。偏見なのはわかっている。


「っていうかさ……あの、これ聞いていいのかわかんないんだけど」

「なんだよ」

「家が海賊だとか盗賊ってことはさ、その、犯罪者扱いで捕まえられたりとかしないの?」

「あぁ、それか。たまに来るぞ」

「来るんだ」

「ま、昔はともかく今はそこまで略奪だとかやってないから海賊っていっても名ばかり感たっぷりなんだよな。ただ、名前だけはそれなりに広まってるから、今でも何か悪事やってると思いこんだ自称正義の味方がやってくる程度な」

「へぇ」


 名がそれなりに広まっている、と言われてもウェズンは今の今まで知らなかったので、多分海とかそっち方面でのみ広まっているんだろうな、と雑に納得させた。

「今はまぁ、どっちかってーと海沿いの町とか村とかと貿易やってる感じか。あとは何か遺跡とかで発見されてない財宝とかないか探したり」

「遺跡ってそんなある? っていうか前に学園で遺跡の罠とか設置しなおしたりしてなかった?」

「ああいう歴史的に何かある、みたいな感じじゃなくて行くトコ失くした連中が住み着いたりしてたとことかだな。後ろ暗い連中が自分の宝物隠したりしてたりする」

「ふぅん……」


 そう言われてふと思ったのは、ゲームで主人公がダンジョンに入った時に何故かある宝箱についてだった。

 今までだってそこを他の旅人とか通っていただろうに、何故一つも宝箱に手を付けられていないのか。いやゲームだからって言われたらそれまでなんだけど。

 毎回入るたびに敵とか宝箱とかリセットされるタイプのやつはともかくとして、そうじゃないやつについてはゲームにしてもなんとも不自然さを感じていた事があった。

 だがまぁ、今しがたレイが言ったような事があるのであれば。

 主人公が足を運んだ時にあった宝箱はそういうやつらがこっそり保管してあるやつで、それ以前にも他の旅人が手を出して空にした宝箱があったのかもしれない。その空になった宝箱に、別の誰かが自分の大切な物をそっと隠して……と考えると、まぁ、それでもちょっと微妙な気持ちにはなるがわからなくもない。

 そういう事情ね、へぇ、みたいな感じで。


 まぁ思い返してみれば、レイと学園の外に出た時に別に彼がお尋ね者になっているだとか、そういう事はなかった。もし今も略奪や殺戮を繰り返すような絵に描いたようなならず者であったなら、それこそもっとあちこちにそういった情報が知れ渡っていた事だろう。


「それからもう一つ」

「おう」

「どうして僕なんだ?」


 必要な物を確保しに行く、それはいい。わかる。

 だが、それに選ばれたのがウェズンであるという部分に関しては、ウェズン本人が「なんで?」という気持ちで一杯だった。


 クラスの中には自分より力仕事が得意な奴もいるし、細かい作業に向いてる奴もいる。

 現在は担当区画を更地にするべく作業をしている面々の中から、適当に複数人引き抜いてきたとしても別にどこからも文句は出てこなかったはずだ。


「あー……なんっつーかさ」

「うん」

「お前なら大丈夫だと思ったんだ」

「ん?」

「や、ほら、それなりに魔物倒しに行くようになったとはいえ、荒事苦手な奴もそれなりにいるだろうちのクラス」

「そうだね」


 というか、荒事得意です! とか豪語できるようなのは多分うちのクラスにはいない。ウェズンとしてもその部分に関してはレイに反対する事なく頷ける。


「でもまぁ、うちの船の連中荒っぽい奴が多いから、ちょっとしたことで喧嘩とかしだすわけ。むしろそれがコミュニケーションまである」

「あぁ、うん」


 それはわかる。

 ウェズンが何で自分はここに……? とか思ってる時も何か近くで喧嘩してたな、と認識はしてあったので、否定のしようがない。


「下手に委縮されても困るし、それであいつらにビビり散らかされると今度は絡まれるわけだ。挙句俺が連れてきた相棒みたいなポジションだから余計にな」

「わぁ」

「でもお前動じないだろ。そういうの」

「それはどうかな」

「どうだか。さっきだって意に介してなかっただろ」


 さっきは別方向に現実逃避してただけで、いきなりガラの悪い男に絡まれたらウェズンだってビクッとするくらいには反応する。何せ中身は一般市民なので。

 勿論、喧嘩を売られたら痛いのは嫌なので徹底的に叩きのめすくらいはするけれど、それはそれとして怖いか怖くないかで言われれば勿論怖い。

 なるべくそういうのを表に出さないようにもしていたのだが、レイから見て一切動じていないように思われていたなら、それはそれで成功である。しかしそのせいで自分が同行者として選ばれたようなので、そういう意味では失敗したのかもしれない。


 気付けば周囲から聞こえていた人の声がやけに大きくなってきて、そこから聞こえた内容から目的の島にはあとちょっとで到着するらしい事が判明して。


 じゃ、行くか。

 なんてとても気軽に言われて、ウェズンは甲板へと戻る事になったのである。

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