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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第3章
88/209

menu81 SSランクの魔獣

劇中の時間軸では久しぶりにあの腹ぺこ騎士が登場です!

今日もどうぞ召し上がれ!

 ユルバは鍋を見つめていた。

 まだたくさんカレーは残っている。

 ウォンに食べさせるには十分な量だろう。


「ん? どうした、ユルバ?」


「いえ。その……。実はまだ実感がなくて」


「実感?」


「自分がまだ作ったっていう実感がなくて」


「あはははは……。なんだ、そんなことか」


「喜んでくれるでしょうか、ウォンは」


「大丈夫だ。ユルバ、一生懸命作ってくれた。それがわからないほど、ウォンは子どもじゃないぞ」


「はい……」


 ユルバの顔にようやく笑顔が灯る。


 すると、夜のネココ亭に人が入ってきた。

 ドアベルが凛と響く。

 ウォンかと思って期待したが違った。

 しかし、ディッシュからすれば、見慣れた人物だった。


「アセルスさん!」


 声を張り上げたのは、ヘレネイとランクだ。

 店内の椅子に座って食休みをしていた2人は立ち上がり、ピンと背筋を伸ばす。


「はあ……。はあ……。ヘレネイとランクじゃないか。2人ともどうしてネココ亭に?」


 アセルスは随分慌てているらしい。

 いつもは山の中ではあまり息を乱さない【光速】の騎士が、額に大量の汗を掻いていた。

 さらに、そこにフレーナとエリーザベトが現れる。

 2人ともアセルスと同じく息を切らしていた。


「良かったぜ。ディッシュ、街にいたんだな」


「あれれぇ~。見慣れない人がいますねぇ~」


 フレーナがホッと息を吐けば、エリーザベトは相変わらず間延びした声を上げる。


「ああ。こっちはユルバっていって、ウォンの――」


「ん? そういえば、ウォンがいないようだが」


 アセルスは周りを見渡す。


「ああ。ウォンな。ちょっと色々あって。多分、山に戻っていると思うんだが」


「なに! 山だと! 今、山といったのか、ディッシュ!!」


 随分と焦った様子でアセルスは近付いてくる。

 ディッシュの肩を掴み、振り回した。


「落ち着いてください、騎士殿」


 それを制したのはユルバだ。

 ひやりとした手に、アセルスは驚く。


 達人同士の強い感受性というべきか。

 アセルスはすぐに、ユルバがただ者ではないことに気付いた。


「す、すまん、ディッシュ」


「いいって……。それより何かあったのか?」


「ダイダラボッチだ」



「「ダイダラボッチ!!」」



 鋭く反応したのは、ヘレネイとランクだった。

 途端、顔が青ざめていく。

 ヘレネイの唇は震えていた。


 一方、山の申し子ディッシュは首を傾げる。


 ダイダラボッチ。

 それは巨大なオーガだ。

 50年1度現れる超災害級魔獣。

 そのランクはSSだ。


 アセルスは10日ほど前、その兆候を見つけた。

 フォンの指示で、ずっと監視していたのだが、予想した通りのことが起こったというわけだ。


「最近、うちに来ないと思ったら、そういうことだったのか」


「う、うむ。ディッシュの料理が食べれなくて、私の腹は――って、そんなことを言ってる場合じゃない! このままではウォンが危険だ。いや、街そのものが危険だ!!」


 相手はSSランクの魔獣。

 国すら滅ぼすほどの怪物だ。

 同ランクのアセルスとて、討伐は難しい。

 ギルドから各国に呼びかけ、Aランク以上の冒険者をかき集めているが、とても間に合いそうになかった。


 ダイダラボッチはすぐさま、山を一飲みするだろう。

 そうなれば、次の標的は比較的山から近いこの街になる。

 王宮から避難指示が出るのも時間の問題だった。


 説明をまくし立てるアセルス。

 だが、彼女以上にショックを受けているものがいた。


「タキオルが危険……」


 ユルバだ。

 ふらりと身体が揺れる。

 すると、ネココ亭を飛び出した。


「待て! ユルバ!」


「今までありがとうございます。ですが、ここからは私にお任せを。タキオルは私の子どもです。私が助けます」


「それなら、俺だってあいつの飼い主だ。見捨てることなんて出来ねぇよ。それに、ほら……」


 ディッシュはカレーが入った鍋を掲げる。


「ウォンに食べてもらいたいんだろ? だったら、忘れちゃダメだ」


「……ディッシュさん。わかりました。タキオルがいる場所に、案内いただけますか?」


「お安いご用だ」


 ディッシュは得意げに鼻の下を擦る。

 鍋に紐を掛け、中身が出ないように縛った。


 一方、アセルスは会話についていけてない。


「え? ちょっと? どういうことだ、ディッシュ? ウォンの母親? え? それってもしや――」


「説明は後だ、アセルス。俺は山に行くぞ」


「ちょっと待ってくれ! 危険だ、ディッシュ!!」


 ユルバとディッシュは走り出す。

 そこにアセルスが追走した。


 その後ろ姿を見ながら、ヘレネイは声を潜める。


「私たちはどうしようか?」


「僕たちではどうしようもないよ」


「お前たちにもやることはあるぞ」


 腕を組み、神妙な面もちのフレーナは言った。


「避難ってぇなった時の誘導ですよぉ。冒険者の役目ですぅ」


「そういうわけだ。後な」


 フレーナはギロリとEランクの冒険者を睨む。

 その眼光にたちまち、ヘレネイとランクは震え上がった。

 ぴしゃりという感じで、背筋を伸ばす。


「は、はい!」


「あの女の事情と、なんでネココ亭にカレーの匂いがあるかを教えろ」


「う~ん。とっても食欲がそそられるのですよぉ」


 ダイダラボッチの監視活動で、ろくにご飯を食べていなかったSランクの冒険者たちは、揃ってお腹を鳴らすのだった。



 ◆◇◆◇◆



 街の外門を出て、外へ出る。

 つとユルバは足を止めた。

 近いといっても、山はまだかなり先だ。

 今から全力でアセルスが走っても、夜更けになる。


「どうするんだ、ユルバ?」


 ディッシュは息を切らしながら尋ねる。

 山で鍛えているとはいえ、おいかけっこする相手としては、ユルバは最悪だ。

 こっちは全力で走ったのに、彼女は涼しい顔だった。

 遅れてアセルスも到着する。


 ユルバは振り返った。


「こうするのですよ」


 するとユルバは白い炎のように燃え上がった。


 人間の肉体がたちまち消滅する。

 いや、むしろ肥大していった。

 美しい顔から大きな牙と顎が生まれ、手足には銀色の毛が生えていく。

 臀部から伸びた尾は大樹のように太くなり、伸び上がっていった。


 変態を繰り返すたびに、ディッシュとアセルスの瞼が持ち上がっていく。


 やがて月の光を隠し、大きな影が2人を覆った。


 闇夜に光るのは、金色の双眸だ。

 ギョロリとディッシュたちを睨む。


「で、でけぇえ!!」


 ディッシュは思わず叫んだ。


 2人の前にそびえ立っていたのは、巨大な狼だった。

 ウォンも狼として比べるなら大きい方だ。

 だが、そのウォンすらまるで適わない。

 そう。ユルバと比べれば、まだまだ子どもなのだ。


 アセルスは呆然と呟いた。


「まさか……」


 その昔、大蛇竜ミドガルズオルムを倒したという神狼は、たった1歩で5つの山を越えたと聞く。


「もしや、ユルバ殿はその眷属……。いや、そのものなのか」


 すると、ユルバはフッと笑った。


「そういえば、そんなこともありましたね」


「では――」


「それよりもお早く。私の背にお乗り下さい」


「おう。わりぃな」


 ディッシュは遠慮なく、ユルバの背に乗っかる。

 大きいだけに乗るだけでも一苦労だ。


「いいぞ。ユルバ」


「では、掴まっていてくださいね」


 立ち上がる。

 思ったより揺れが激しい。

 アセルスは落ちそうになり、思わず前に座るディッシュにしがみついた。


「大丈夫か、アセルス?」


「だ、だだだだだ大丈夫だ。いきなり抱きついてすまない」


「バランスを取るのが難しかったら、俺に抱きついていてもいいぞ」


「え?」


「俺はウォンに乗るのに慣れてるからな。お前はそうじゃないだろ?」


「よ、良いのか」


「ああ……」


 男子、3日会わざれば刮目して見よ。


 東方にはそういう言葉があるらしい。

 どういう経緯で、ユルバと出会ったのかはわからない。

 けれど、しばらく会わないうちに、ディッシュが逞しくなったように思えた。


「どうした?」


「い、いや、何でもない。じゃ、じゃあ……」


 ちょっと遠慮がちにアセルスは、ディッシュの腰に手を回した。

 密着する。

 料理の匂いがした。

 ディッシュらしい。

 そう思うと、今からSSランクの魔獣がいる山に行くことも怖くなくなる。


 いつだってそうだ。


 ディッシュは自分に勇気を与えてくれる存在だった。


「カレーの匂いがする」


「にししし……。そりゃあな。カレーが入った鍋を持ってるからよ」


 ディッシュは腹に抱えた鍋を見せる。


 ぐおおおおおおおおお……。


 アセルスの腹が鳴る。

 驚いたのは、ユルバだった。

 くるくると首を回して警戒する。

 竜の嘶きと勘違いしたのだろう。


「では、行きますよ」


 タン、とユルバは地を蹴った。

 瞬間、神狼は闇夜の中に飛び出す。


 気がついた時には、月が近く見えた。

 手を伸ばせば、掴み取れそうだ。


 もはや駆けるではない。

 ユルバは翔んでいた。


 あまりの出来事に、アセルスは悲鳴を上げる。

 一方、ディッシュは笑っていた。

 すげぇ! と無邪気に喜んでいる。


 こうして2人は、ウォンとダイダラボッチがいる山を目指すのだった。


すでに店舗によっては、早売りが始まっています。

もう手に入れたよっていう方はいらっしゃるのでしょうか?

だとしたら、めっちゃ嬉しいです。


そして帯を見ていただけたでしょうか?

まだ正式な発売日まで言えないのですが、

帯に重大な情報が載っております。

是非お確かめください!

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