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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第3章
75/209

menu73 ゼロスキルの行きつけ

21000ptを突破しました。

ブクマ・評価を付けてくれた方ありがとうございます。

引き続き、どうぞ召し上がれ!

「初クエスト達成おめでとうございます、ディッシュさん」


 祝福してくれたのは、フォンだった。

 討伐と薬草採取のクエストを終え、ディッシュたちはようやくギルドに帰ってくる。ウォンも一緒だ。

 ギルドの前に座り、ディッシュが出てくるのを待っている。

 当然、道行く人の目を引いていた。


「ありがとよ、フォン」


 ディッシュは礼を言う。

 すると、今度フォンは頭を下げた。


「すいません。私が離席したばかりに余計な手間をかけさせてしまったようで」


「別にいいよ。それに、いい仲間にも出会えたからな」


 ディッシュはヘレネイとランクを紹介する。

 フォンの水色の瞳が、後ろに控える2人を捉えた。


 すると、ヘレネイとランクは背筋を伸ばす。

 若干、顎を引いて緊張していた。

 ヘレネイは声を潜め、ランクに尋ねる。


「ちょ、ちょっと! どういうこと? あれって、フォンさんでしょ?」


「あ、ああ……。間違いない。ギルドで1番の受付嬢っていう……。あの人に目をかけてもらった冒険者は、必ず伸びるっていう話だ」


「それが、なんでディッシュくんと仲が親しげなのよ」


「僕が知るわけないだろ。――ってか、頭を下げてるぞ、あのフォンさんが……」


「一体、何者なのよ、ディッシュくんって……」


 ヘレネイは若干恨みがましそうにディッシュを見つめる。

 Eランク冒険者の胸中など、本人は知るよしもない。

 睨まれても、首を傾げるしかなかった。


「ヘレネイさん。ランクさん」


 そんな時、フォンが声をかける。

 声に鋭さがあった。

 もしかして、何か粗相をしたのだろうか。

 ヘレネイとランクは、一層緊張する。

 背筋に汗が浮かんでいた。


「「は、はひぃ」」


 恋人同士は仲良く噛む。

 フォンは柔らかく笑った。


「ありがとうございました。とても助かりました。もしよろしければ、ディッシュさんとまたパーティーを組んで、助けてください」


「え……」


「もしかして、僕たち……。感謝されてる?」


「一応、そのつもりで言ったのですが……」


 フォンは苦笑いを浮かべる。

 慌てて、ヘレネイとランクは頭を下げた。


「あ。いえ。ここここここちらこそ。よろしくお願いします」


「お願いします!」


「俺からも頼むぜ、ヘレネイ、ランク」


 ディッシュも感謝の言葉をかける。

 2人はようやく頭を上げた。


「もちろんよ。てか、今回は私たちが助けられた方だし」


「そうだよ。ディッシュくんとウォンがいなかったら、今頃どうなっていたか……」


「おいしい食べ物も食べたもんね」


 ヘレネイはあの時の味を思い出す。

 プリプリの弾力感と、トロトロの肉汁……。

 思わず舌をなめずりしてしまった。


「お2人とも、もしかしてディッシュさんの料理を食べたのですか?」


 カウンターから身を乗り出し、フォンは尋ねる。

 ヘレネイとランクは顔を見合わせた後、ふんふんと頷いた。


「もしかして、フォンさんも知ってるんですか? ディッシュくんの料理」


「え? ええ? まあ……」


 何故か、フォンの顔は引きつっていた。

 またヘレネイとランクは顔を見合わせる。

 一体、どういう反応をしていいかわからない、といった様子だった。


「ともかく褒賞金をお渡ししますね」


「俺はいらねぇぞ。ヘレネイとランクに渡してやってくれ。2人がいなかったら、クエストを受注できなかったしな」


「ダメよ、ディッシュくん」


 釘を刺したのは、ヘレネイだった。

 眉間に皺を寄せ、ディッシュを睨む。


「冒険者同士の褒賞金の譲り合いは、基本的に禁止されてるの」


 褒賞金の分配は、等分が基本である。

 ランクや経験などは関係ない。

 褒賞金の譲り合いも、原則禁止されている。

 トラブルを防ぐため、ギルドが厳しく取り締まっていた。


「でもよ」


「私たちに助けられたのはわかるし、初クエストだから人に何か恩返しをしたいって気持ちはわかるわ。でもね。一番頑張ったのは、怖い思いをして、それでもクエストを達成した自分自身なのよ。だから、まずディッシュ君自身を労うことが大事なの」


「ヘレネイさんの言う通りです。この褒賞金は、自分のために使ってください」


 フォンは褒賞金が入った路銀袋をディッシュに差し出す。

 それを受け取り、手の平に載せると、いつもより重く感じた。

 時々、野草や魔草などを売って、ディッシュは小銭を稼いでいる。


 でも、その時とは違った重さがあった。


「ありがとな、ヘレネイ。お前の言葉、いい味だしてた(ヽヽヽヽヽヽヽ)


「なはははは……。実は、ある人の受け売りなのよね、これ」


「憧れの人ってヤツか。そうか。いつかそいつにも、飯を作ってやらねぇとな」


「うん。それはナイスアイディアね。きっと喜ぶと思うわ」


 すると――。


 ぐごごごごごごごご……。


 魔物の吠声かと思うほどの腹音が鳴る。

 お腹に手を当てたのは、ディッシュだった。

 同時に、ドッと食欲が押し寄せてくる。

 身体が重く感じた。


「どうやら、俺は緊張してたみたいだな」


 ディッシュはぽつりと呟く。

 山には慣れているから、いつものことだと思っていた。

 けれど、自分が生きるために山の中をうろつくのと、誰かの依頼のために山に入るのとはまるで違う。


(あいつも、こんな気持ちだったのかな……)


 ディッシュの顔は自然と天井を向いた。

 最近、見ないあいつ(ヽヽヽ)のことを思い浮かべる。


「ディッシュくん、お腹が空いてるみたいだし。どこか食べに行こうか」


 ヘレネイが誘ってくる。


「ん? でも、なんなら俺が作るぞ。お礼もかねて」


「たまにはいいじゃない。自分が作るんじゃなくて、食べる側に回るのも」


 確かに……。

 ディッシュは思わず頷いた。

 作るのは好きだが、食べるのも好きだ。

 それに誰かの料理というのは、勉強にもなる。

 折角、街へ来たのだ。

 店に入って食事するのも悪くない。


「そうだな。じゃあ、そうするか」


「決まりね。何かリクエストはある? 私たち結構、おいしいお店を知ってるわよ」


 ヘレネイは得意げに鼻を鳴らす。


 ディッシュはしばらく考えた。


(肉……は、山で食べたしな。となると、魚か……。あ――)


 ピンと何かが閃く。

 ディッシュはヘレネイとランクの方に振り返った。


「前から行きたかった店があるんだ」


 ディッシュは、にししと笑うのだった。



 ◆◇◆◇◆



「ここだ」


 ディッシュが看板を指し示す。

 ヘレネイとランクを伴ってやってきた店の看板には、可愛い猫がスヤスヤと眠る絵が描かれていた。


「こ、ここって――」


「まさか――」



 ネココ亭ぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!



 2人は絶叫する。

 その意味がわからず、ディッシュは付いてきたウォンとともに首を傾げた。


「なんだ、知ってるのか、2人とも」


「知ってるも何も、超有名店よ」


「そうだ。ここの魚料理は絶品なんだ」


「へぇ。やっぱ有名な店なんだな」


 ディッシュはとぼけた声を上げる。

 一方、ヘレネイたちの慌てぶりは尋常ではなかった。


「ここは冒険者にとって聖地なのよ。何せ、あの人の行きつけなんだから」


「ふーん。まあ、いいや。入ろうぜ」


 ディッシュは気安く店の扉を開くのだった。


というわけで、ネココ亭でお食事です。

どんな料理を、ディッシュが食べるかお楽しみに!

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