menu54 チーズinハンバーグ
とろっとろやで!
今日もどうぞ召し上がれ!
コミックス『ゼロスキルの料理番』が重版しました!
Amazonなど各通販サイトの在庫が戻ってます。
まだコミックを手に入れていないという方は、
是非これを機会にゲットしてくださいね。
もしかしたら、お近くの書店の在庫にも重版分が回っていると思いますので、
覗いてみてください!
食堂内がざわつく。
椅子を蹴ったのは、アリエステルだった。
「チーズ入りじゃと!!」
さしもの王女も、圧倒的攻撃力に気づいたらしい。
青い瞳を宝石のように輝かせ、思わず涎を飲み込んだ。
「キャリルが入れてみたいっていうからさ。作ってみたんだけどよ。これが美味いのなんの……」
みんな、ほっぺた落ちちまうぞ……。
ディッシュはにしし、と笑った。
再び一同、ごくりと唾を飲み込む。
当のアセルスも圧倒されていた。
ハンバーグから湧き出た黄金色に輝くチーズを前にして、さしもの【光速】の姫騎士もたじろいだ。
もはや、それは鉄板に載った魔獣だった。
ようやく決心がつく。
アセルスはハンバーグを口に突っ込んだ。
「はぐぅぅぅぅううううううううううううううううううう……!!」
人前もはばからず、アセルスは叫んだ。
とろっとろだ。
とろっとろなのだ!
入ってきたのは、ミノタウロスの肉の旨み。
粗挽き肉の食感は言うまでもなく最高。
ごろっとしていて、ダイナミックに味を感じさせてくれる。
そこに、チーズ in!!
すると、味も食感も一変した。
肉の旨みと玉葱の甘味。
そこにチーズの酸味が加わる。
すべての味がバランス良く配合されたハンバーグに隙は無い。
均等に味を刺激するどころか、チーズの酸味はうまく互いの味を高めていた。
まさに鉄板という黒土に載った無敵の要塞。
アセルスが本能的におののくのもわかる。
そして食感だ。
ごろっとした合い挽き肉に、トロッとしたチーズが加わることによって、肉のややパサパサした食感が激変する。
チーズが肉と肉の合間を埋めることによって、さらに一体となっていた。
ザクッとした食感に、頬が熱くなるほどのトロトロの食感……。
おいしくならないわけがなかった。
からり……。
アセルスは完食する。
口の周りを手でなぞった。
チーズがついていることを知ると、ややお行儀悪く、指で拭き取る。
すると、チーズはビロリと伸びた。
肉汁を吸った白いチーズは、やや卑猥にテカテカと光っていた。
「アセルス様、いかがでしたでしょうか? チーズ入りハンバーグは?」
キャリルは恐る恐る尋ねる。
反応を見れば、明白なのだが、それでもきちんと感想を聞きたかった。
すると、アセルスは首だけを動かし、キャリルの方を向いた。
眼光鋭く、まだ興奮が冷めやらぬらしい。
「キャリル……」
「は、はい……」
「おかわりだ」
「へ? で、でも……。ステーキも食べて、ハンバーグもおかわりすると、後のデザートが……」
「おかわりだ」
大事なことなので2回言った。
その時――すでに主は1匹のケダモノへと豹変していた。
「は、はい。只今――!」
「あと……。キャリル」
「え? なんですか、アセルス様」
「腕を上げたな。とっっっっっっってもおいしかったぞ!」
アセルスの表情が柔らかくなる。
落ち着き、威厳に満ちた笑みを浮かべていた
それはキャリルが一番好きな主の笑顔だった。
犬獣人の少女は、エプロンの裾を握る。
瞳に涙を滲ませた。
「今すぐ! 今すぐ、お代わりをお持ちしますね」
すると、キャリルは慌てて食堂を出て行った。
◆◇◆◇◆
一度、葡萄ジュースを口に流し込んだ後、アリエステルは質問した。
「ところで、なんでこんな晩餐会を開いたのだ、アセルスよ」
「あたしも気になってた。アセルスなら、これぐらいの肉、ペロリと食べちまうだろう?」
フレーナも同意する。
当の本人は酸味の利いた葡萄酒を飲み干した。
「フレーナ……。私は鯨ではないぞ」
「でもぉ……。ディッシュくんと2人っきりでぇ、アセルスが獲ってきたぁ。ミノタウロスを食べたかったんじゃないですか~」
「も、もう~! エリザぁ~!!」
情けない聖騎士の悲鳴に、どっと笑いが起こる。
しばらくモジモジと恥ずかしがっていたアセルスは、ポツリポツリと口を開いた。
「確かにディッシュと2人で食べるのもいいだろう。けど、こうも思ったのだ」
もっとディッシュの料理を、みんなに食べてもらいたい……。
「そして認めてもらいたいと、思った。それは魔獣の肉に対する偏見を無くしてほしいとかそういうのではない。彼を……。ゼロスキルでありながら、人を感動させる力を持つディッシュ・マックホーンという人間を……。この晩餐会は良い機会になると私は思ったのだ」
しん、と静まり変える。
やがて拍手が送られた。
まばらだった音が、1つにまとまり、聖騎士の野望を讃える。
「うむ。その意見には同意だ、アセルスよ」
「だよなー。飯はみんなで食べるのが1番だぜ」
「でもぉ、それじゃあぁ。エリザがぁ友人代表でぇ結婚式のスピーチをぉ……」
「我々も微力ながら、お手伝いさせてください」
「こんなうまいもん。知らなかったら、人生損ってもんだ!」
酒癖の悪いローラフは、ワイングラスを掲げる。
仲間達と肩を組み、まるで子供みたいに笑っていた。
「ディッシュ、お主から何もないのか?」
「うん? そうだな……。俺はただ人に『うまい』っていってもらいたいだけだ。……でも、アセルスがそういう機会を作ってくれるなら。俺としては、めちゃくちゃ嬉しいぞ」
いつもより控えめに、ゼロスキルの料理人は笑う。
「うぉん!」
すると、吠声が聞こえてきた。
神狼ウォンだ。
外で待機していた神獣を、キャリルが解き放ったのだ。
「今にも、扉を破って入ってきそうだったので、連れてきましたわ」
「悪いな、ウォン」
「うぉん!」
珍しく神狼は主人に対してお怒りだった。
家の外までハンバーグの匂いがしてきたからだ。
神の獣は今にも発狂しそうになっていたのだという。
そして待望のハンバーグが差し出される。
早速がっつくと……。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおんんんん!!」
満足そうに咆吼を上げた。
すっかり気に入ったらしい。
鉄針のように逆立っていた毛が、モフモフになる。
すかさずご主人は、飼い神獣に飛びつき、毛の感触にまみれていた。
「でぃ、ディッシュ殿! そ、その狼は?」
「こいつは俺の相棒のウォン。神獣だ!」
「「「「し、神獣!?」」」」
「なあ、このハンバーグの横にかかってるソースは?」
「それはキャリルが作ったソースだ。絶品だぞ」
「絶品だなんて……。照れてしまいますわ、アセルス様」
「やはりステーキも食べたいのぅ。腹がまだおさまらん。一切れでもよい。残っておらんか?」
「よーし! じゃあ、今度はあたしが焼いてやる!!」
「ぐーぐー。すやすや……」
「ぶははははははははっ!!」
賑やかな晩餐は、その日の深夜まで続いた。
その傍らには常に、ゼロスキルの料理が魅惑の光を讃えていた。
食事にはおいしいも必要だけど、楽しいも必要というお話でした!







