menu172 ランクの告白
☆★☆★ コミカライズ 更新 ☆★☆★
Webの更新が空いて申し訳ない。
ヤングエースUPにて、コミカライズの更新が更新されました。
Web版のみに公開された、ウォンとウォンの母親のエピソードとなっております。
是非読んでください。
ロケットフィッシュの煮付けは、実にシンプルだ。
もはやゼロスキルの料理に欠かせない存在となった醤油に、砂糖、お酒を入れる。さらにディッシュは煮付けの味を際立たせるために、わざわざロケットフィッシュの骨から出汁を取ることにした。
それを2、30分ほど煮て、完成したのがロケットフィッシュの煮付けである。
醤油独特の香りに腹を刺激されつつ、地底湖に揃った冒険者たちとギルド関係者は、飴色に光る煮付けを頬張った。
「おいしい!!」
「うまい!」
「なんだ、これ」
「天ぷらとは全然違う」
聞こえてくる感想は、どれも好評。
いや、どちらかと言えばその美味しさに戸惑っている節がある。
みんなの反応を眺めながら、ディッシュも口を付けた。
「うめぇ!」
確かにさっきの天ぷらとは違う。
煮てもプリッとした歯応えある身の弾力は変わらないが、溢れる旨みが違う。
おそらくこれは骨で出汁をとった成果だろう。
ロケットフィッシュの骨から得た出汁の成分を、身が吸い込み、本来の旨みを何倍も高めている。
そこに醤油のコクと、砂糖の甘みが合わさり、複雑ながら満足いく味の仕上がりを見せていた。
戸惑うのはそういうところだ。
味が深いからこそ、何故おいしいかわからないのだろう。
複雑さゆえに、いくら食べて飽きがこない。
「くぅぅぅぅ! こういう時、銀米が食べてぇなあ!!」
ディッシュが言うと、みんなは一斉に頷いた。
「わかる。わかるぞ、その気持ち」
「おーい。誰か持ってないか?」
「この~。お汁と一緒にかけて~」
「ぐわわわわ! エリーザベトさん、それ以上言わないで。頭が痛くなるぅぅ」
「落ち着いて、ヘレネイ」
(まるで薬○中毒者みたいですねぇ)
阿鼻叫喚の中、ルヴァンスキーは1人突っ込む。
しかし、皆が言うとおり絶品だった。
◆◇◆◇◆
ダンジョン捜索は一旦終了となった。
ロケットフィッシュという脅威もなくなり、今度は専門家を率いて詳しく調査されるらしい。
ダンジョンを最後まで踏破できず、消化不良な面はあったが、参加した冒険者は満足げな顔を浮かべていた。
今回ディッシュの魔獣食を初めて食べた者は少なくない。
魔獣は腐るのが早い上に、ディッシュの特殊技能がなければ食べられないため、おいしいとは噂で聞いていたが、どんなものかすら知らなかったものがほとんどだった。
しかし、今回初めて食べた冒険者たちは、総じてディッシュの料理を認めた。
こうしてゼロスキルの料理は、次第に広まりつつあったのだ。
そして、ディッシュ以外にもその力を認められた若い冒険者がいた。
現在、街のギルド前ではその授与式が行われている。
「ヘレネイ・ヘンネベル!」
ルヴァンスキーの声が響く。
手には賞状のようなものを持っていた。
「はい」
その彼の前に、緊張した面持ちのヘレネイが立つ。
「そして、ランク・ディーツ」
「はい」
続いて、ランクが前に立つ。
横に立つヘレネイ以上に、顔が固まっている。
今から魔獣と戦うみたいだ、と少し離れたところで見学していたディッシュは笑った。
隣には先輩であるアセルス、フレーナ、エリーザベト。
さらにはダンジョン攻略でともにロケットフィッシュと戦った冒険者が並んでいる。
皆、我が子を見るような目で、若い冒険者カップルを見守っていた。
ルヴァンスキーは咳払いし、賞状を読み上げる。
「ヘレネイ・ヘンネベル。ランク・ディーツ。2人の未踏破ダンジョンでの功績を鑑み、また複数の冒険者から推薦もあったことから、2人にCランク冒険者の力があると判断し、ここに授与するものとする」
2人の胸元に、Cランク冒険者を示す銀の紋章がつけられる。
2人は振り返り、賞状を掲げると、初々しいCランク冒険者に向かって温かい拍手が送られた。
Cランクとなれば、冒険者として1人前に見られる。
故に、ようやく冒険者として認められたことに2人の喜びはひとしおだろう。
頑張りを見てきたディッシュには、2人の喜びが痛いほど理解できた。
普通ならランクが泣き、ヘレネイが慰めるのが、このカップルの基本ではあるのだが、今回は逆だった。
突如、ランクがヘレネイの前で跪くと……。
「ヘレネイ、結婚しよう」
ついにプロポーズしたのだ。
周りは「わっ」と盛り上がる。
ディッシュの隣で見ていたアセルスの顔は真っ赤だ。
その注目すべきヘレネイの返答はこうだった。
「2人でまだまだ頑張って、マイホームを建てないとね」
涙を浮かべながら、ヘレネイはプロポーズを受けると、万雷の拍手と一緒にどこからか降ってきた花吹雪が舞う。
祝福の声が2人に雨あられのように降り注いだ。
幸せそうな2人は、ディッシュの方を向いて手を振る。
横のアセルスは後輩たちを祝福しながら、羨ましそうに見ていた。
「いいなあ……。2人とも幸せそうだ」
と言いながら、横目でディッシュのことを窺う。
そんなディッシュの前に現れたのは、ルヴァンスキーだった。
その横には商人風の男が立っている。
「ディッシュさん、この方は街の商業ギルドのギルドマスターです」
「こんにちは、ディッシュさん」
「お、おう。なんだ? 俺になんか用か?」
ギルドマスターはにこやかにディッシュに向かって微笑みかけた。
「単刀直入に申しましょう」
ディッシュ殿、この街で店を出すつもりはありませんか?







