menu170 ドリアージュの根
☆★☆★ コミカライズ 更新 ☆★☆★
ヤングエースUPにて、「ゼロスキルの料理番」のコミカライズが更新されました。
東方の白い悪魔とは、そしてディッシュが出してきた黒い液体の正体は?
こちらもおいしいので、是非読んでくださいね。
アセルスたちがロケットフィッシュを摘まんだ瞬間、叫声が辺りに響き渡った。
すでに表情でわかる。ロケットフィッシュの絶品具合がだ。
「うまい! 歯応えが溜まらないぞ。あの悪魔の魚の刺身と似ているが、歯応えはこちらの方が好きかもしれない」
アセルスが解説すれば、フレーナも絶叫する。
「こんなに薄いのに、肉厚の鯛でも食ったみたいなボリュームじゃないか」
フレーナはもぐもぐと咀嚼しながら、驚きを隠さなかった。
「食べれば食べるほど、旨みが増して、飲み込むのがもったないですよ~」
エリーザベトも少しうっとりしつつ、ロケットフィッシュの刺身を噛みしめた。
『うぉん!!』
ウォンの反応も上々のようだ。
かつかつと音を出しながら、ロケットフィッシュを咀嚼している。
「うまいですねぇ。ちょっと酒が欲しくなる味です」
ルヴァンスキーは少し大人な感想を呟く。
それを聞いて、同じエルフ族のランクが質問した。
「ルヴァンスキーさんってお酒を嗜むんですか?」
「本当に嗜む程です。深酒はしません。次の日の仕事に差し支える場合がありますから」
「じゃあ、今度私たちと一緒に飲みに行きません?」
「是非! エルフの英雄の話を聞きたいです」
「あまり面白い話は持ち合わせていませんが、誘いは断りませんよ」
ルヴァンスキーは意外にも早く了承した。
憧れの人と酒を飲めるだけあって、ランクは両手を上げて子どものようにはしゃいだ。
「良かったわね、ランク」
「うん。めちゃくちゃ楽しみだよ!! あ。そうだ。次はそのドリアージュの根をおろした物を食べて下さいよ」
「そう言えば、あなた方は食べたことがあったんでしたね」
「はい」
「最近、ディッシュくんとパーティーを組む時は、いつもリクエストしてるんですよ」
「ほう。……そんなに中毒性があるのですか?」
ルヴァンスキーは目を光らせる。
ギルドの外交官として、見逃せない情報だった。
彼の仕事は、山の安全と情報、そして山での違法活動の調査だ。
魔薬や、その材料となる魔草を、勝手に山で栽培して売りさばいてる人間は少なくない。そうした違法に植えられた魔草などを検挙するのも、ルヴァンスキーの役目である。
そもそもディッシュが得意としている魔獣食も、割とグレーゾーンだった。
今のところ被害らしい被害は出ていないし、やや中毒症状気味になっているのはアセルスだけ。しかも、彼女は料理というより、ディッシュのことが気になっているらしい。
どうやらあの美食家王女アリエステルや、その王族にまで目をかけられているようなので、これまで見逃してきた。
ディッシュの性格上、あり得ないと思っているが、根が真面目なルヴァンスキーは決して警戒を弛めたりしてこなかった。
そのルヴァンスキーが、ドリアージュの根をおろした物を刺身の上に載せる。
ランク曰く、あまり多く乗せない方がいいというので、アドバイスに従った形だ。
「いただきます」
意を決して、口の中に入れる。
ゆっくりと咀嚼した瞬間、ルヴァンスキーの目から涙が溢れた。
「ぬぅうぅうううう???????????」
叫び声を上げる。
今にも食べてるものが出てきそうな悲鳴だったが、ルヴァスキーは咀嚼を続けていた。
涙目になり、その味の異常性に気付きながらも、次第にその美味しさを受け入れていく。
やがて、しっかりと飲み込んだ。
そこまでは静かだったルヴァンスキーだったが、途端片眼鏡を光らせる。
「な、なんですか、この味はぁぁぁぁああああ!!」
絶叫する。
「辛い……? 苦い? いや、苦いよりは辛いか。渋味とも違いますし、とにかく舌がおかしくなったのかと思って慌てましたが……」
「その気持ちわかります」
ランクはうんうんと相槌を打った。
「うまい……。というか、これほど魚の旨みを引き立てる――いや、そもそも食材の旨みを引き立てる調味料がこれまであったかどうかが疑わしい。ともかくこのドリアージュの根をおろしたものを付けただけで、ロケットフィッシュの白身がここまでおいしくなるとは」
ルヴァンスキーはもう一口食べる。
また鼻先につんと来たらしく涙を滲ませたが、先ほどのようなオーバーなアクションはなかった。
落ち着いて、もう1度味を確かめるようにゆっくりと咀嚼する。
「うん。味が違う。いや、味が違うと思えるほど、旨みの度合いが強くなっているように感じる。さらにこの鼻を突き抜けるような清涼感は、煎じた薬草以上だ」
「詳細な食レポありがとよ、ルヴァンスキーのおっさん。あんた、意外とアリスとためを張れるぐらいの食通じゃねぇのか?」
ディッシュはいつも通り、にししと笑う。
ルヴァンスキーは少し頬を染めて、軽く咳払いした。
「そ、そんなことはありません。あと、一国の姫君の略称を気安く使わないでいただきたい。失礼ですぞ」
注意するのだが、いつもと違って覇気がなかった。
「しかし、ドリアージュの根をおろしたのは、どういった効能ですか?」
「そのまま食べると、さすがに辛みがきつくて食べれないんだ。ロドンのおっさんみたいに食べるヤツもいるけどな。酒飲みにはそっちの方がいいらしいけどな。でも、辛みがちょっとまろやかになるぶん、香りがよくなるしね」
「なるほど。この香りは確かに……。嗅いでいると落ち着くというか。もっと食べてみたい気になりますね」
「むふふふ……」
変な声で笑ったのは、アセルスだった。
「ルヴァンスキー殿もすっかりディッシュの料理の虜ですな」
仲間ができて嬉しいのか、アセルスは気安くポンポンとルヴァンスキーの肩を叩く。
馴れ合いを好まない一匹狼の外交員は、その肩を払いながらも、ロケットフィッシュの刺身を頬張っていた。
その様子を見て、周りはクツクツと笑う。
声を出さなかったのは、せめてもの情けだろう。
「さーて、前菜はこんなところだろう。次はあれでも作ろうかな」
ディッシュは鶏卵を取り出し、ニヤリと笑った。
アセルスはピンと来たらしい。いつも海藻のようにふよふよしているアホ毛をピンと立てた。
「卵が出てきたということは……。あれだな、ディッシュ」
「にししし……。さすがはアセルス、よくわかったな」
「確かにあれはおいしそうだ」
ディッシュとアセルスは仲良く不気味な声を上げて笑う。
ウォンも何かに気付いたらしく、目を細めて唇からよだれを垂らした。
「一体なんだよ、ディッシュ」
「そうですよ~。2人だけの世界なんてずるいですよ」
すると、アセルスは飢えた狼みたいに目を光らせる。
「ふふふ……。やっぱり魚と鶏卵とくれば」
「天ぷらに決まってるよなあ」
『天ぷら!』
ロケットフィッシュを丸ごと天ぷらにしちまおうぜ。
ディッシュはいつも通り悪戯っぽく笑うのだった。







