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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第7章
188/209

menu166 ランクの悪知恵?

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★

本日、ヤングエースUP様でコミカライズ更新されました。

ディッシュがゴーレム窯で作ったものとは?

Web版、そして最新コミックスともども、どうぞお召し上がり下さい。


挿絵(By みてみん)

 『塩』と書かれた袋を見て、一同は絶句する。


 蛟竜にはアセルスの剣も、ウォンの牙も、フレーナの炎も通じなかった。


 SSランク、神獣と言われてきた猛者たちですら、まさしく歯が立たなかった相手だ。


 なのに、まさか『塩』で撃退してしまうとは思わなかった。


「川や湖に棲む生物は、急激な塩分の濃度の変化を嫌うと聞きますが、まさか魔獣にも通じてしまうとは……」


 ルヴァンスキーも感心しきりだ。


「ディッシュ、確信はあったのか?」


「ない!」


「ディッシュぅぅぅうううううう!!」


 アセルスはディッシュの肩を掴んで、カクテルのように振った。


「危ないことはするなと、以前言ったではないか!?」


「わりぃわりぃ。でも、あいつの正体を知ったら、どうしてもやりたくなってな」


「正体?」


「蛟竜の正体に気付いたのですか?」


 ディッシュの発言には、ルヴァンスキーも声のトーンを上げる。


「ああ。これを見ろよ」


 ディッシュは地底湖の中に入る。その湖面を攫うと、何かを掴んでみんなに見せた。


 それは細長い、何かの生物だ。


「悪魔の魚?」


 アセルスは呟く。


 悪魔の魚とは海に棲む魔獣の一種で、ツルツルして掴めず、姿形から海神の使いだ、などと恐れられている魚だ。


 昔ディッシュは悪魔の魚を炭火で焼いて、主人が病で倒れた『ネココ亭』を大復活させた。今でも、その料理は看板娘のニャリスに受け継がれ、代表的なメニューの1つになっている。


 だが、ディッシュが手に握っていたものは、悪魔の魚よりも1周りぐらい小さい。


 しかも目がパッチリと開いていて、唇が厚い。ただぬるぬるしているのは、悪魔の魚とよく似ていた。


 鋭い斬撃に切り裂かれたらしく、手足のない胴体が真っ二つになっている。


「多分、これロケットフィッシュの幼体だ」


「「「ロケットフィッシュ??」」」


 一同は驚く魔獣とは、Cランクの魔獣だ。


 形はシンプルで、今見える幼体より少し大きいという程度。


 しかし、その身体は岩の様にゴツゴツして固い。


 最大の特徴は、『飛翔』のスキルだ。


 といっても、空を自在に飛べるわけではない。


 水の中から空に向かって、高く高く飛び上がることができる。


 その速さは砲弾より速く、当たれば人間の身体でも簡単に穴を開けることができる。


 額に受ければ、そのまま頭が吹っ飛ぶほどの衝撃があり、毎年死者が出る程、小さいながら非常に危険な魔獣である。


 特に産卵期はひどい。


 川を上って、岩壁に何度も激突し、出来た穴の中で卵を産むと言われている。


「多分、産卵期のロケットフィッシュが地下水に迷い込んで、そこで産卵したんだろう。しかも、何匹もな。普通こういう場合、鳥や魔獣に食われることが多いんだが――――」


「地下だと天敵がいなかったから、増えてしまった――そういうことですね」


 ルヴァンスキーの結論に、ディッシュは頷く。


「ディッシュ。じゃあ、あの表面のヌルッとしたのはなんなんだよ?」


 フレーナは迷惑そうに顔を顰める。


 自分の炎が、ロケットフィッシュの幼体を覆うぬるぬるに阻まれたからだろう。


「蛙の卵と一緒さ。まだ完全に孵化できてないのかもな。それが盾になって、炎が通じないのだろう」


「まさか~。蛟竜の正体がぁ、ロケットフィッシュの幼体なんてぇ。びっくりしましたぁ」


 エリーザベトはのんびりとした声で結論づける。


「いえ。まだあれが蛟竜の正体とは言えませんけどね」


「何にしてもだ」


 アセルスは剣を構える。


「竜種でないとわかったのなら、少しやりようがありそうだ」


「そうだな。相手は不死身じゃねぇ」


 フレーナはパンと手を叩く。


「斬って斬って斬りまくれば、戦いようがあるということですね」


『うぉん!』


 ルヴァンスキーも片眼鏡をあげると、横のウォンも吠えた。


「話は聞きました!」

「僕たちも戦います」


 やってきたのは、ヘレネイとランクだ。


「あなたたち、他のCランク以下の冒険者と一緒に退避したのでは?」


「すみません、ルヴァンスキーさん」


 ランクが頭を下げると、ヘレネイはディッシュの肩を掴む。


「仲間が来ないので、戻ってきちゃいました」


「お前たち――――」


 アセルスは眉間に皺を寄せるが、ランクは怯まなかった。


「僕たちだって冒険者です。魔獣を前にして逃げるなんてできません」


「それにちょっと私にいい考えがあるんですよ」


「いい考え?」


 すると、ヘレネイはそれぞれの耳を貸すように要求する。


 いい考え、ということを聞いて、再び一同は驚いた。


「なるほど。悪くないですね」

「なかなか悪知恵だな」

「にしし……。ヘレネイらしいや」


 ルヴァンスキーとアセルスが頷き、最後にディッシュが笑う。


「悪知恵って……。これ、ランクが考えたんだからね」


「ちょ! ヘレネイ! それは言わないって約束……!」


「いいと思いますよ、ランクさん。結果が伴えば、悪知恵は大いに結構」


 ルヴァンスキーも褒める。


「そうとなったら、早速やろうぜ。あいつが吠え面をかくところ、早くみたい」


 フレーナは片手に炎を握り、やる気満々だ。


「よし! では、ヘレネイ、ランク。頼むぞ。お前たちがこの作戦の頼み綱だ」


「はい」

「任せてよ、アセルスさん」


「私は冒険者に事情を聞いて、手伝ってもらうよう頼んでみます」


「では、反撃開始だ」


 アセルスが剣を掲げると、「おー!」と威勢良く声が揃った。



 ◆◇◆◇◆



 ランクが地底湖の前に1番前に立つ。


 今は蛟竜ことロケットフィッシュの幼体たちは、湖面の下に隠れている。


 いつ飛び出してくるかわからない状況の中、ランクは勇気を以て、湖面を睨み付けた。


「ランクは大丈夫なのか、ヘレネイ?」


「大丈夫よ、アセルスさん。ランクはあれでも私が認めた恋人(おとこ)なんだから」


「俺もヘレネイの言うことはもっともだと思う。ランクはいつも自信なさげだけど、やる時はやるヤツだぜ」


 岩場の影に隠れて、3人は息を潜める。


 振り返ると、ルヴァンスキー率いる冒険者たちの姿も見えた。


 あちらも準備万端のようだ。


 アセルスはランクに合図を送る。


 すると、ランクはスキル【解聴】を使った。


 彼のスキルは花や昆虫と意思疎通できる。


 その声を聞くことも、逆に自分の声を届けることもできる。


 そして条件によっては、それらを操ることも可能だ。


「地底湖で息づく生命よ。僕の声に応えておくれ」


 しんと静まる――かと思われた。


 地底湖に薄い漣が立つ。それはいつしか、2波、3波となって続くと、ついに湖面が震え出した。


 何か虫音を何千倍にしたような音が響き、地底湖の中で反響する。


「な、なんだ、これは??」


「これもランクの能力の1つです」


 ランクの声に、今必死になって生物たちが声なき声を上げようとしている。


 1つでは小さな音だ。しかし、何千あるいは何万という声になれば、洞窟を揺るがす音へと変わる。


 その音はアセルスたちを惑わせた。


 しかし、アセルスたちだけではない。


 ザッ! と飛沫を上げて、ついに蛟竜ことロケットフィッシュの群体が現れる。


 鎌首をもたげ、ランクへと襲いかかるのだった。


いつも「いいね」と感想ありがとうございます!

とても励みなります。コミックスも買っていただいたら、

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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しく頂きました。 ランクとヘレネイのコンビは、相変わらずいい関係ですね。 ディッシュとアセルスが熟年夫婦ならランクとヘレネイは、若夫婦ってとこですかね。 あれ反対かな? 塩って、…
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